映画プリキュアドリームスターズ! 50点

「映画プリキュアドリームスターズ!」はシリアスものとしてもコメディとしても中途半端で、細部の作りにも不満が残る。

キュアホイップ(=美山加恋)、ぺこりん(=かないみか)、そしてモフルン(=齋藤彩夏)が登場し、プリキュアが映画館にお邪魔するかもしれないので、捜し物をしたり道に迷っていたらミラクルサクライトを使って教えてあげてほしい、と観客に伝える。

桜満開の3DCGの世界、桜が原。幼いサクラ(=阿澄佳奈)と青い狐のシズク(=木村佳乃)は、2匹の狼に追われながら走ってどこかへ向かう。

その様子を遠くから鴉天狗(からすてんぐ=山里亮太)が見ていた。鴉天狗はサクラのことを金魚ちゃんと呼び、我が物にしようと企んでいる。

途中、シズクは狼たちに追いつかれ取っ組み合いになるが、シズクが鼻で触れると狼たちは折り紙に姿を変える。サクラは傷を負ったシズクを気遣い、2人は先へと急ぐ。

サクラたちは千本鳥居をくぐり抜け狐神社へとやってきた。シズクは、マフィン、宝石、鍵、が別々に描かれた3枚のカードをサクラに渡し、異世界への入り口を開けるように促す。サクラはミラクルライトを使い、神社の扉に重ねるようにして異世界への入り口を開く。

しかしそこへ2匹の狛犬、赤狗(あかいぬ=関町知弘)、黄狗(きいぬ=田所仁)を従えた鴉天狗が現れた。狛犬はサクラたちの方へ突進してくるが、サクラはシズクを置いて先に行けない。それを見たシズクは急いでサクラに駆け寄り、入り口の向こうへ突き飛ばす。シズクは狛犬たちに捕らえられ、サクラは異世界の上空から落下する  

宇佐美いちか(=美山加恋)は不思議な夢から覚めた。ぺこりんは目覚まし時計を止めていたようで、いちかはすっかり寝坊してしまった。

いちか、有栖川ひまり(=福原遥)、立神あおい(=村中知)、琴爪ゆかり(=藤田咲)、そして剣城あきら(=森なな子)は、ベンチに集まり雑談をする。いちかはみんなを花見に誘うが、あいにく予定の空いている人はいなかった。それに今年は桜の開花が遅れているらしい。

いちかはぺこりんと2人で山へやってきた。しかし頂上には大きな切り株があるだけで、桜はどこにも咲いていない。それでも前向きないちかは、ビニールシートを広げ、夢で見た満開の桜を想像しながらマフィンを食べようとする。しかしふと切り株の方に目をやると、夢に出てきたサクラが寂しげに立っていた。

ネタバレなしの感想

プリキュアは例年10月末にレギュラーシリーズ映画、3月末にクロスオーバー映画が公開されている。昨年までのクロスオーバー映画は「プリキュアオールスターズ」と呼ばれ、歴代のプリキュアたちが総出演したが、本作で共演するのは直近の3作品「キラキラ☆プリキュアアラモード」「魔法使いプリキュア!」「GO!プリンセスプリキュア」のみである。

「魔法使いプリキュア!」の主人公、朝日奈みらい(=高橋李依)は設定の通り中学2年生くらいに見えた。しかし「プリキュアアラモード」の主人公いちかは、中学2年生という設定にも関わらず、まるで未就学児のような容姿や立ち振る舞いをしている。それにも増して、スイーツを使って相手を倒す、という発想は、子供番組としても一線を越えているように思う。

少子化や世帯構成の変化、あるいは娯楽の供給過剰といった逆風にさらされ、「プリキュア」の視聴率は年々低下してきた。そんな中、制作者が試行錯誤することは理解できるけれど、進むべき方向が明らかに間違っている。大人が観てつまらないものは、子供が観てもつまらないのだ。そこで制作者がやるべきことは、「プリキュア」のドラマとしての質を上げることであった。ケーキ作って楽しいね、という話では幼稚園の年中あたりで卒業されてしまう。

昨年秋に公開された「映画 魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!」は完成度の高い作品だ。TVアニメ版も同じくらい力を入れて作れば、きっと子供たちも付いてくる。

本作は桜が原をCGアニメ(=3DCGアニメ)、それ以外の世界を手書きアニメで描く。オールCGは風景だけならばよいが、人の動きを表現するには力不足である。特に表情の変化が上手く表せないため、桜が原に集結したプリキュアたちはどこかアンドロイドのように見えた。本作を観る限りではCGアニメと手書きアニメの差は歴然としており、手書きが全てCGで置き換わることは当分ないように思う。

本作は作品の性質上、ドラマを展開する時間がほとんどない。12名のプリキュアをかき集めて変身させ、いくつかの戦闘シーンを入れれば、残される時間はごく僅かだ。

そんな条件の下、冒頭の数分でサクラとシズクの別れを素早く描いたのは的確な判断であった。しかし、2人の別れ方はひどく不自然だ。サクラはシズクに助けられた、という流れにしたい脚本家の気持ちはわかるが、物理的に押し出させなくても思いやりや心のつながりは表現できたはずだ。

「プリキュアアラモード」はもともと声優に不安を抱えていたが、本作において木村彩乃にシズク、山里亮太に鴉天狗の声を任せたのは決定的な間違いである。特に本作ではサクラとシズクの関係が軸になるから、シズクの声は極めて重要だった。しかし木村は台本を棒読みしているだけであり、シズクには全く魂がこもっていない。

このような事態はアニメにとって致命的だ。シズクや鴉天狗に説得力が欠けたことにより、本作は全体が嘘っぽくなってしまった。

また木村彩乃や山里亮太を使うことで興行収入が増えるとは考えにくい。こういった配役をする前に、一度子供の意見を聞いてみてはどうか。

一方、本作には冗談の要素が多く、ところどころでメタ発言が入ったり、敵キャラの鴉天狗がプリキュアの友達のように振る舞ったりする。しかし本作のネタはキレがいまいちで、ギャグ映画といえるほどの力はない。またこのような緩い作りにした結果、本作はシリアスものとしても中途半端な仕上がりになった。

そのほか、気が付いたことをいくつか指摘する。

「魔法使いプリキュア!」に登場する魔法界は、「GO!プリンセスプリキュア」に出てくるノーブル学園の近所にあるらしい。

中盤、いちか、ひまり、あおいの3人は魔法界の上空から落ち、その後、何度も地面に叩きつけられる。この描写は少々やりすぎであり、私は「この素晴らしい世界に祝福を!2」第8話のダクネスを思い出してしまった。

いちかは建物の屋根に引っ掛かるが、落下したモフルンを追って飛び降りる。ただいくらモフルンが空気抵抗を受けるといっても、あの時間差でいちかが追いつくのは難しいだろう。

サクラとシズクの回想シーンは十分練られていなかった。崖の使い方は恣意的だし、全体的に貴重な時間をだらだらと使いすぎている。

ちなみに、エンドクレジッツの後にはおまけがある。

私が観たのは2日目の昼だったが、大スクリーンには大勢の観客が入っていた。最後の戦闘場面で泣いてしまった子供もいたけれど、映画全体としてはそこそこ満足できたのではないか。

本作は大人向けとしてはやや頼りないが、小さい子供ならば十分楽しめる。もし機会があれば、映画館で鑑賞してもよいと思う。

原作 東堂いづみ  監督 宮本浩史  声 美山加恋、福原遥、村中知、藤田咲、森なな子、かないみか、阿澄佳奈、高橋李依、堀江由衣、早見沙織、齋藤彩夏、嶋村侑、浅野真澄、山村響、沢城みゆき、東山奈央、古城門志帆、木村佳乃、山里亮太、関町知弘、田所仁、中務貴幸、島田岳洋、内田夕夜、鳳 芳野、木村雅史、鈴木裕斗、佳村はるか、清都ありさ、井上遥乃、千菅春香、植田佳奈、ほか

1時間10分

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