パッセンジャー 15点

「パッセンジャー」は世界観が嘘っぽく、終盤の展開もあまりにひどい。

宇宙船アヴァロンはスペースコロニー、ホームステッドⅡへ向かっていた。258人の乗組員と5000人の乗客たちは冬眠ポッドで眠っている。

順調に航行していたアヴァロンは、ある日、流星群に遭遇する。アヴァロンはシールドを出力して流星を砕きながら進むが、大きな流星の衝突を受けたことにより電源が落ちてしまう。しかし電源はただちに復旧され、一つの冬眠ポッドが起動する。

ポッドが開くと、デンバー出身の技術者、ジム・プレストン(=クリス・プラット)がコンピューターガイドの声で目を覚ました。ガイドによればアヴァロンはあと4ヶ月でホームステッドⅡに到着するという。辺りを見回したジムが、自分以外起きていないようだ、と尋ねると、みなさんお目覚めです、とガイドは答える。ジムはふらつきながら客室へ向かい、シャワーを浴びて眠りにつく。

ジムは私服に着替えて客室から出る。だが通路やカフェテリアなどに人の気配はない。そこでジムはガイドに勧められた機械工学の講習会へ行ってみる。しかしそこにも生徒は来ず、コンピューターの講師がいるだけであった。ジムは、どうして自分しかいないんだ、と疑問を投げかけるが、講師はジムの質問を理解できない。

ジムは事態の深刻さに気付き、大慌てでメインコンコースへと移動する。そして広場に設置された案内板の指示を受けて案内所へ行くが、中は無人であった。

ジムは急いで案内板に戻ってきて、キャプテンはどこだ、と怒鳴る。そして教えてもらったブリッジへ向かうも、扉が閉まっていてこじ開けられない。

ジムはカスタマーサービスセンターの椅子に腰掛けて、コンピューターに相談する。それを受けたコンピューターは、地球にメッセージを送る、という選択肢を示す。しかしジムがメッセージを送信したところ、地球に届くまで19年、返事が返ってくるまでに55年かかります、と言われてしまう。

ジムはナビゲーション情報室に入り、コンピューターに船の運航状況を尋ねる。するとコンピューターは、アヴァロンは地球を出発してから30年3週間と1日が経過しており、目的地のホームステッドⅡに到着するのはこれから約90年後です、と告げる。

ネタバレなしの感想

本作は宇宙船内における風変わりな恋愛模様を描いたSFラブストーリーである。ただ孤立した宇宙船内に2人きりという設定にした場合、前半はまだしも、後半が書けずに苦しむことは目に見えていた。また恋愛する以前の問題として、本作は世界の描写に失敗している。

まず本作は冒頭から説得力がなさ過ぎた。

アヴァロンは光速の約50%で地球からホームステッドⅡへと乗客たちを輸送している。こうした商売が中途半端な技術で成立するはずはないけれど、アヴァロンが出力するシールドは流星の衝突すらまともに防げないし、冬眠ポッドも不安定だ。それに乗組員まで全員冬眠させるというのはどういう管理意識なのだろう。

ジムは注射1本で30年の眠りから目覚め、ガイドの説明を受けるとすぐに歩きはじめる。冬眠の影響はなくはないが、その描写はいかにも取って付けたようだった。

アヴァロンの乗船者はみな冬眠しているにもかかわらず、船内の電気はつけっぱなしである。アヴァロンが無限の電力を蓄えているとは思えないけれど、これもカスタマーサービスの一環だろうか。

映画の世界は非現実的でもよいが、その世界なりの現実性は必要である。本作にはその現実味がないから、宇宙空間で1人孤立する、という極めて絶望的な状況にもかかわらず、ジムの抱える苦しみがいまいち伝わってこないのだ。

アヴァロン内をさまよったジムは、ついにバーテンダーのアーサー(=マイケル・シーン)を見つける。アーサーはロボットだったが、話し上手でジムの精神的な支えになった。

ジムは1年ほど1人で過ごすうち、徐々に精神的に追い詰められて危うく自殺までしかける。そしてついに、以前から気になっていた若く美しいオーロラ・レーン(=ジェニファー・ローレンス)の冬眠ポッドを開けてしまう。

ジムとオーロラのやりとりは特別なものではないが、2人の感情はそれなりに上手く表現されている。しかし問題はこの話をどのように終わらせるかだ。

本作をバッドエンディングにする方法はある。新たに何人かを起こし、睡眠ポッドを巡って争わせればよい。しかしこれでは舞台を宇宙船にした意味がほとんどない。

一方でハッピーエンディングへ向かう道、つまりジムとオーロラに公正な困難を与えてそれを乗り越えさせる道、は想像しにくい。イケメンを目覚めさせて三角関係に、というのは一応考えられるが、これも宇宙船以外でできることだ。

こうして終盤の流れは消去法的に決まった。だが残念なことにそれは観客を満足させるものではないし、描き方も無茶苦茶である。おそらく脚本家は途中で諦めてしまい、どうせ失敗作なら笑わせてやろう、というような開き直りで書き上げたようだ。しかし本作の馬鹿げた設定にここまで付き合ってきた観客が、脚本家の責任放棄を笑って許せるはずもない。

オーロラとジムはそれぞれ一度死んで、どういうわけかまた生き返る。これはおそらく冗談のつもりだろうが、本当に蘇生が必要なのは見せられた観客の方だ。

オーロラとジムが穴をふさぐ場面には驚いた。オーロラが死にかけた辺りから嫌な予感はしていたが、このシーンではついにコントが始まる。

ジムはエンジニアだが、宇宙船の専門家ではない。私は現場を見て、何これ?、と思った。きっとジムもそう感じたはずだ。

未来の宇宙服はやたらと熱に強いらしい。ただ宇宙服を着たからといって握力が大幅に強化されることはないだろう。

ジムの案は応急処置的なもので、根本的な解決にはなっていない。映画鑑賞の際もリモコンのdボタンがあれば役に立つ。

本作を観たのは7日目の昼だったが、上映回数が少ないということもあってか、中スクリーンはまずまず混雑していた。しかし本作の完成度では、映画館に足を運んだ観客もがっかりだろう。

本作は全体に問題を抱え、終盤では完全に緊張の糸が切れている。映画館で観ることは決して薦めない。

監督 モルテン・ティルドゥム  出演 ジェニファー・ローレンス、クリス・プラット、マイケル・シーン、ローレンス・フィッシュバーン、アンディ・ガルシア、ほか

1時間56分

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