ハルチカ 30点

「ハルチカ」は結末こそさほど悪くないが、話はほぼ全編を通じて拙い。

入学式の朝、新高校1年生の穗村千夏(=チカ=橋本環奈)は「ミニFMはごろも」を聴きながら混雑したバスに乗り込む。チカが立っていると、バスが揺れて椅子に座っていた男子生徒(=佐藤勝利)にぶつかってしまう。チカは男子に謝り、自分が座ってあなたが立たないか、と提案するも、結構です、と返されてしまう。

チカは音楽室へ向かうが、人の気配はない。そこで奥の準備室へ進んでいくと、片桐誠治(=前田航基)と野口わかば(=二階堂姫瑠)がちょうど口づけを交わしている最中だった。チカが声をかけると、片桐たちは慌てて取り繕う。チカは吹奏楽部への入部希望を伝えるが、片桐によると吹奏楽部は部員不足で廃部が決まっているらしい。

チカは職員室へ行き、校長の岩井俊雄(=志賀廣太郎)に吹奏楽部の存続を訴える。だが岩井は、吹奏楽をやるには部員が大勢必要だし、顧問の先生も産休に入った、と言って前向きではない。その会話を耳にした新任の草壁信二郎(=小出恵介)は、吹奏楽はフルートやホルンなど主要9楽器の担当者が1人ずついればできる、と助け船を出す。そう言われた岩井は、4月中に部員を9人集められれば継続を認めるが、それができなければ廃部にする、とチカに伝える。チカはそれを受け入れ、草壁に顧問を引き受けてもらった。

翌日の朝、またバスが揺れ、チカは同じ男子生徒に覆い被さってしまう。そのとき男子は、チカちゃん、とチカの名前を口にする。チカがよく思いだしてみると、男子は小学校の途中まで一緒だった上条春太(=ハルタ)であった。

ネタバレなしの感想

本作はチカが吹奏楽部を復活させるまでの軌跡を描いた青春映画である。しかし脚本の出来は散々で、お世辞にも良く書かれているとは言えない。

原作は吹奏楽部員が活躍する異色ミステリーとのことだったので、私は本作にかなり期待していた。しかし蓋を開けてみれば、本作は吹奏楽部を舞台にした子供っぽい楽団ものであった。ミステリーらしき展開は随所に見られるが、それらはいずれも程度が低い。このように中途半端にミステリーを使うくらいなら、いっそ本作的な青春ドラマにした方がよかったのではないか。

チカは元部員や音楽経験者を引き入れようとするが、勧誘は少なくとも1度は断られる。彼らが入部を拒む背景にはいろいろと理由があり、ハルとチカはそれらを一つ一つ解き明かしていく。

こういった基本的な発想は面白かったけれど、その具体的な内容は惨憺たるものだ。

宮本恭二(=平岡拓真)の振る舞いは大袈裟すぎた。こういった描写はわざとらしいだけで、劇的な効果は生み出さない。また小学生の頃に少しトランペットをやっていたくらいでは、高校で再開してもなかなか吹けないだろう。

米沢妙子(=上白石萌歌)が退部した理由もばかげている。米沢はチューバのソロコンテストにおける入賞経験者で、そこへ至るまでには相当な努力あったと思う。制作者はそういう人の気持ちを理解していない。

檜山界雄(=清水尋也)が復帰に至る流れはまるでコントのようである。ハルは檜山が不登校になった原因を神業のように突然見破った。また、おじいさんたちの心変わりもあまりに唐突で説得力に欠ける。

芹澤直子(=恒松祐里)にまつわる話も安易であった。大人を満足させるには、もう一捻り欲しいところだ。また夜間、無人の校舎へ忍び込んだら警備会社に通報がいかないだろうか。それに高校生は毎日掃除しているはずであり、こんなときに都合良く捜し物が見つかるとも思えない。

吹奏楽部が衰退した経緯も子供だましだ。楽器演奏の熟達には膨大な時間と労力がかかり、高校生ともなればサンクコストは膨大である。だからほぼ全ての部員たちが辞めるには、顧問によるパワハラなど、よっぽどの理由が必要だった。

岩井が吹奏楽部の存続に後ろ向きなのはなぜか。理由はないけど反対、というご都合主義では中高生の観客も納得できないと思う。

チカが部員集めにあれだけ苦労するのも釈然としない。通常なら吹奏楽は人気の部活だし、中学で吹奏楽部に入っていた新入生も多いはずだ。さらに草壁は指揮者の国際コンクールで2位になった実績がある。それほど優秀な人が顧問なら、むしろ志望者が多くなりすぎて困るくらいではないか。

脚本に関して唯一評価できるのは結末の方針だ。楽団もので多いのは、高校に上がって楽器を始めた主人公が短期間のうちにめきめきと上達し、演奏会での成功を経てハッピーエンディング、という流れである。だが意外にも、本作はそのような道筋をたどらなかった。

ただし最終場面はいかにも人工的である。本作は大したドラマを積み上げていないから、終わるときも派手な演出に頼るしかなかったようだ。

私が本作を観たのは初日の昼だった。若い学生を含め客はまずまず入っており、こういった系統の作品としてはかなり健闘していた。

本作の内容は十分練られておらず、原作支持者にとっては不満が残るだろう。映画館で鑑賞することは薦められない。

原作 初野晴「ハルチカ」シリーズ  監督 市井昌秀  出演 佐藤勝利、橋本環奈、恒松祐里、清水尋也、前田航基、平岡拓真、上白石萌歌、二階堂姫瑠、志賀廣太郎、小出恵介、ほか

1時間58分

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