劇場版 ソードアート・オンライン オーディナル・スケール 50点

「劇場版 ソードアート・オンライン オーディナル・スケール(=OS)」は画や音楽に優れるものの、脚本はありきたりで恣意的な展開も目立つ。ちなみに、本作を鑑賞するにあたってTVアニメ版「ソードアート・オンライン(=SAO)」を観ている必要は必ずしもないが、そちらの知識があると理解しやすい。

VRMMORPG「ソードアート・オンライン(=SAO)」の舞台である浮遊城「アインクラッド」の第22層。キリト(=松岡禎丞)とアスナ(=戸松遥)は湖畔に座り、夜空の流星を眺める。キリトの実家近くには星空がきれいにが見える丘があり、2人は、ゲームをクリアしたらそこで一緒に流星を見よう、と約束する。さらにキリトは、向こうの世界でも指輪を贈るよ、とアスナに語りかける。

キリトたちが現実の世界に戻ってしばらくすると、AR(拡張現実)型情報端末「オーグマー」が流行しはじめた。先発のVRマシン「アミュスフィア」はプレイヤーを仮想現実世界にフルダイブさせる本格的なものだったが、オーグマーは現実を拡張するだけなので安全で親しみやすい。

さらにオーグマー専用のARMMORPG「オーディナル・スケール(=OS)」が人気を博し、人々はそこで与えられるランキングの向上に励んでいた。イメージキャラクターである人工知能、ユナの魅力もOSの普及に一役買っているようだ。

キリト、アスナ、シリカ(=日高里菜)、そしてリズベット(=高垣彩陽)はファミレスでお茶をしている。アスナ、シリカ、リズベットの3人は帰還者学校でオーグマーが無料配布されたことをきっかけとしてOSにはまっているが、VRの世界で名を上げたキリトはARの流行を素直に喜べない。

お茶を終えた4人は、ショッピングモール内を散策する。シリカとリズベットは、帰還者学校の生徒たちがユナのファーストライブへ無料招待されたことについて話し合っている。シリカは、4人で一緒にライブへ行こう、とキリトを誘うが、キリトはあまり乗り気でない。3年間もVRの中にフルダイブしていたため、そちらの世界に愛着があるのだ。するとシリカは、OSのイベントバトルにSAOのボスモンスターが登場する、という噂を引き合いに出す。そんな流れの中、キリトはアスナを会場へ送る役目を任されて、半ば強引にイベントバトルに参加させられる。

テレビアニメ版ソードアート・オンラインのまとめ(予習)

ソードアート・オンラインはフルダイブ型のゲーム

VRMMORPG(=Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game=仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインRPG)とは、プレイヤーが仮想世界に「フルダイブ」して行う型のMMORPGであり、作中では「ヴァーチャルMMO」、「VRMMO」などと略されている。VRマシンを頭部に装着してVRMMORPGの世界に入り込むと、プレイヤーは自らの分身「アバター」を通じて、ゲームの世界をほとんど現実のように感じることができる。いわばVRMMORPGはリアルな夢のようなもの。また作品名にもなっている「ソードアート・オンライン」はVRMMORPGの一種である。

アニメ版ソードアート・オンライン概要

過去に「ソードアート・オンライン(2012年7-9月、全25話)」、「ソードアート・オンラインⅡ(2014年7-9月、全24話)」が深夜アニメとして放送されており、本作はその続編にあたる。

「ソードアート・オンライン」は、前半の「アインクラッド編」、後半の「フェアリィ・ダンス編」、に分かれている。

「ソードアート・オンラインⅡ」は、前半の「ファントム・バレット編」、中盤の「キャリバー編」、後半の「マザーズ・ロザリオ編」、に分かれている。

アインクラッド編

世界初のVRマシン「ナーヴギア」とVRMMORPG「ソードアート・オンライン」が発売され、約1万人のユーザーが「浮遊城アインクラッド」を舞台とする完全なる仮想世界へと飛び込んだ。

すると彼らの前に開発者の茅場晶彦が現れ、SAOにログアウトボタンはなく自発的ログアウトは不可能であること、また外部の人間によってナーヴギアの停止や解除が試みられたり、プレイヤーのHPが0になるとその瞬間プレイヤーの脳はナーヴギアによって破壊されること、が宣告される。またプレイヤーたちが解放される条件は、アインクラッド第100層にいるボスの打倒であった。

プレイヤーの1人、キリト(=桐ヶ谷和人のアバター)はオレンジ色の髪の剣士アスナ(=結城明日奈のアバター)と出会って恋に落ち、結婚の約束をする。

さらに2人は第22層に家を買い、彼らのことを「パパ」、「ママ」と呼んで慕う、人工知能のユイと短い間生活を共にする。

キリトは第75層において第100層のボスであるヒースクリフ(=茅場のアバター)を倒す。

フェアリィ・ダンス編

SAOをクリアし現実世界に戻ったキリト(=桐ヶ谷和人)だったが、アスナ(=結城明日奈)を含む約300人のSAOプレイヤーが未だに眠りから覚めていなかった。

そんなときキリトは、妖精の世界を舞台とするVRMMORPG「アルヴヘイム・オンライン(=ALO)」の中でアスナらしき人物が目撃されたという情報を得る。

そこでALOの中へ入り込んだキリトは、金髪の剣士リーファ(=キリトの義理の妹、桐ヶ谷直葉のアバター)と出会い、SAO時代のユイとも再会する。

キリトは茅場の協力を得て「菩提樹」にいるオベイロン(=須郷伸之のアバター)を倒し、茅場からVRMMORPG開発キット「ザ・シード」を託される。

こうしてキリトがALOでの問題を解決したことにより、アスナを含む全てのSAOサバイバーが目を覚ました。

SAOとALO事件を経てVRMMORPGは消え去る運命にあったが、キリトがザ・シードを世界中のサーバーにアップロードさせたことにより、むしろ増殖していく。ちなみに、ザ・シードの活用によってSAOの舞台であった浮遊城「アインクラッド」はALO内に取り込まれた。

ファントム・バレット編

キリトはSAOの一件で関わりを持った総務省の菊岡誠二郎から、銃器世界を舞台としたVRMMORPG「ガンゲイル・オンライン(=GGO)」に出没した謎のプレイヤー、デス・ガンについての現地調査を依頼される。

ナーヴギアはSAO事件発生後に回収されており、後継のVRマシン「アミュスフィア」では脳に損傷を与えることは不可能になったはずだった。しかしGGO内でデス・ガンによって銃殺されたプレイヤーは、現実世界においても謎の死を遂げていたのだ。

そこでGGOに潜入したキリトは、水色の髪をした銃の名手、シノン(=朝田詩乃のアバター)の助けを借りてデス・ガンを倒す。

ちなみに、ファントム・バレット編は「ソードアート・オンラインⅡ  第14.5話」に総集編としてまとめられている。

キャリバー編

GGO事件が解決し、キリトたちは平穏な日常をすごしていた。

そんなある日、キリトの妹、直葉は、ALO内で聖剣「エクスキャリバー」が発見されたという記事をキリトに見せる。キリトは以前からエクスキャリバーのありかを知っていたが、新アインクラッドの攻略にかかりきりで取得を先延ばしにしていた。

そこでキリトは仲間たちを誘ってダンジョンへ赴き、エクスキャリバーを持ち帰る。

マザーズ・ロザリオ編

アインクラッドがアップデートされ、第21層から30層が開放された。そこでキリトとアスナは第22層へと赴き、SAO時代において所有していたログハウスを再度購入する。

ログハウスに集まった際、アスナはリズベット(=篠崎里香のアバター)から第24層の木の根元に姿を現す「絶剣」と呼ばれるプレイヤーの存在を知らされる。絶剣は対戦希望者と1人ずつ戦うらしいが、キリトでさえ歯が立たなかったという。

後日アスナは絶剣に勝負を挑むが、ぎりぎりのところで負けてしまう。

しかし絶剣ことユウキ(=紺野木綿季のアバター)はアスナを気に入って、自分のギルド「スリーピング・ナイツ」がボスを攻略する手助けをしてほしい、と言う。

そうしてアスナはスリーピング・ナイツの6人と共にボスを倒す。

戦いの後、アスナはユウキと共に黒鉄宮の戦士の碑に自分たちの名前が刻まれたことを確認するが、ユウキは突然ALOからログアウトして姿を見せなくなる。

現実世界において、アスナはキリトの助言をもとに医療用フルダイブ機「メディキュボイド」の臨床試験をしているという横浜の港北総合病院へと向かう。

そこにはメディキュボイドにつながれたユウキ(=紺野木綿季)がいた。ユウキはエイズにかかり、余命幾ばくもないという。

それからまもなく、ユウキは仲間たちに見守られながらALOの世界で最期を迎える。

葬儀の日、キリトとアスナは医師の倉橋やスリーピング・ナイツのメンバー、安施恩と話す中で、メディキュボイドの初期設計が茅場によって行われていたことを知る。

ネタバレなしの感想

TVアニメ版「ソードアート・オンライン」は本質的には「ドラえもんのび太と夢幻三剣士」と同じだ。SAOにおけるVRマシンと(ソフトとしての)SAOはそれぞれ「ドラえもん~」における「気ままに夢見る機」と(ソフトとしての)「夢幻三剣士」にあたる。またキリトはのび太くん、アスナはしずかちゃん(あるいはジャイ子ちゃん?)だろう。

しかし残念ながら、SAOは聖書級に何でもありな作品である。

「ドラえもん~」ではドラえもんの存在さえ認められれば、夢見る機や夢幻三剣士についても自然と受け入れられた。一方のSAOは、VRマシンやソフトSAOを強引に現実世界の事情と結びつけて説明しようとした。その結果、SAOはドラえもんの代わりに人々の理解不能な思考や「科学技術」という名の魔法を生み出した。

またSAOは処女作だったこともあり、原作者は先々の展開までは見越していなかったらしい。そうして無計画に書きはじめられた作品をいつまでも続けようとすれば、当然、強引な反則技にも頼りがちになる。

ただし原作者はSAOを書くうちに少しずつ上達してきたようだ。実際、「アインクラッド編」は設定も展開も極めて稚拙であるが、「ファントム・バレット編」はそこそこ工夫されており、「マザーズ・ロザリオ編」はSAO始まって以来のまともなドラマになっている。

本作はそうした流れの中で制作された。TVアニメ版は「ドラえもん~」に酷似していたが、本作の基本的な発想は「デジモンアドベンチャー」のそれである。類似の作品はしばしば作られており、つい最近も「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」が公開された。

「マザーズ・ロザリオ編」を観て本作に期待した観客は少なくなかったと思うが、あいにく本作はずいぶんと子供っぽい作品になってしまった。

SAOの主要な問題点の1つは、キリトのキャラ設定にある。キリトは誰よりも強いというだけでなく、性格がキザで鼻持ちならない人物だ。おまけに戦闘にせよ恋愛にせよ、話は常にキリトに都合良く進んでいく。これは例えて言うなら、「さえかの」や「このすば」の主人公がこの上なくキザでユーモアのセンスもなく、おまけに加藤恵やアクアに手を出しているようなものだ。これでアンチが出なければ、世界の七不思議に数えられるだろう。

おそらくそんな批判もあってか、原作者は本作において若干の柔軟性を見せた。つまり、キリトをもう少し人間らしいキャラクターとして描こうとしたのだ。しかしアスナの両親に会うのを躊躇する、あるいはアスナの日記を勝手に見てしまう、といった描写はむしろ逆効果であった。精神的に退行させることと人間味を持たせることは決して同じではない。

またキリトはTVアニメ版においてはほぼ無敵の剣士であったが、それは一応、VR内のこととして正当化されていた。しかしARにおいてはその言い訳が通用しない。OSで活躍できるのはネットオタクのか細い高校生ではなく、ミルコ・クロコップやボブ・サップのような屈強かつ俊敏なマッチョメンなのだ。こうした設定のあおりを受け、本作のキリトは平凡な高校生剣士に成り下がった。

しかし案の定、本作も最終的にはお約束のスーパーご都合主義を発動させる。この場面の描写は、PlayStationの本体を気合いを入れて振ればゲームがクリアできる、と言っているようなものであり、小さな子供ですら不審に思うのではないか。

さらに重村教授(=鹿賀丈史)が暴走をする背景は子供向けアニメの定番ネタだ。しかし重村は少しひねくれた人物として描かれており、子供向けアニメ独特の潔さは感じられない。

その他にも、本作はおかしな点が多い。

まず、AIのユナはどうしてはっきりと意思を伝えないのか。ユナのキリトに対する訴え方は非常に曖昧で、話を引き延ばそうという原作者の意図がありありと感じられる。こうした安易なやり方では観客を納得させられない。

重村は人々の記憶を勝手に抜き取ってしまう。しかし記憶の抽出が可能ならば、当然、記憶のコピーもできるはずだ。そして記憶を奪い取らずにコピーだけさせてもらえば、誰にも迷惑を掛けずにユナの問題を解決できたのではないか。

TVアニメ版では天才プログラマーの茅場晶彦(=山寺宏一)が登場し、たった1人で万能の働きを見せた。本作では重村がその役割を担っているが、相変わらず虫の良い話が頻出する。魔法のような記憶の抜き取りに関してもそうだが、どうやって新国立競技場の扉をすべてロックしたのだろう。こういった疑問に対してその都度苦しい言い訳を考えるようでは、観る側の私たちはとても付いていけない。

ユナのライブ会場における展開も極めて不可思議だ。

記憶をスキャンするためには人々の恐怖値を高めなくてはいけないらしいのだが、死ぬほどの怖さを感じた参加者はオーグマーを外すのではないか。SAOサバイバーならなおさらだろう。逆にオーグマーを外していないとすれば、それは感じている恐怖が経験値稼ぎの欲求すら下回っているからである。

それはさておき、ライブ会場を無理矢理アインクラッド第100層と結びつけるあたりはもうカオスとしか言いようがない。最後をこんな風にいい加減にまとめるようでは、作家として失格である。

後日談もひどすぎた。SAOの世界では殺人未遂犯は裁かれないらしい。それに役所は組織で動くものだ。菊岡誠二郎(=森川智之)を出すことで全てを解決しようなどという発想は、あまりにも子供じみている。

一方で本作の長所は、画がきれいなこと、また音楽が効果的に使われていることだ。もしそれらが踏ん張っていなければ、本作は壊滅的な出来になっていた。しかしこれはTVアニメ版と状況が似ている。結局のところ、脚本が画や音楽と釣り合っていないのだ。

ちなみに、エンドクレジッツの後に一場面ある。これは次回作の宣伝だろう。

私が観たのは2日目の午前であったが、大スクリーンにかなりの人が入っていた。こういった子供だましぎりぎりの作品が大人に受け入れられるというのは、私にとって衝撃的だった。主題がオンラインゲームでヒロインが健気な美人ならば、それ以外のことは気にしないのだろうか。

本作は脚本が今一つで「マザーズ・ロザリオ編」から退化した感がある。アニメ版の支持者ならば観にいってもよいと思うが、一般には薦められない。

原作 川原礫『ソードアート・オンライン』  監督 伊藤智彦  声 松岡禎丞、戸松遥、伊藤かな恵、竹達彩奈、日高里菜、高垣彩陽、沢城みゆき、平田広明、安元洋貴、山寺宏一、神田沙也加、井上芳雄、鹿賀丈史、ほか

1時間59分

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