僕らのごはんは明日で待ってる 45点

「僕らのごはんは明日で待ってる」は、さわやかな青春メロドラマである。

スーツ姿の葉山亮太(=中島裕翔)は屋上の双眼鏡をのぞき込んで何かを観ている。

高校3年生の葉山は、教室の後部窓際の席に座りぼんやりと外を眺めていた。そこへ突然、同級生の上村小春(=新木優子)がやってきて、体育祭はミラクルリレーの米袋ジャンプの選手でいいよね、と突っかかるような口調で話しかける。葉山は少し驚くが、上村の提案に素直に従う。

米袋ジャンプとは、米袋に男女1組が入って50メートルを跳び抜ける競技であった。練習初回、上村は米袋の前に、葉山は言われるがままその後ろに入るが、2人の息が合わず一向に前に進まない。なぜ自分が米袋ジャンプの選手に選ばれたのか、と尋ねる葉山に対して、上村は、葉山は暗くて誰もペアになりたがらないから、体育委員の自分が組むことになった、と答える。

別の日の練習中、米袋ジャンプは力のある葉山が袋の前に入ると上手くいった。2人は練習を終えると校庭に座って一休みする。上村はリュックサックからポカリスエットを2本取りだし、そのうち1本を葉山に差し出す。少し雑談すると、葉山は高校2年生で亡くなった兄について話し出した。上山は、葉山の兄が亡くなったことは知っている、と言ってしばらく聞いていたが、その話、今聞かないとダメかな、と途中で遮って、選抜リレーの練習に行ってしまう。

体育祭当日、葉山たちは米袋ジャンプで首位に立ち、最終走者にたすきを渡すとその場に倒れ込む。そして葉山たちの学級はそのまま1位でゴールテープを切る。それを見た上村は、自分はミラクルリレーで1位になったら告白しようと決めていた、と話し始める。誰に?、と葉山が尋ねると、上村は、葉山君に、この状況でそれ以外ないでしょ、と不機嫌そうに言い返す。

ネタバレなしの感想

「僕らのごはんは明日で待ってる」というのは幾分奇妙な日本語だ。しかしここから想像される内容は、若者が農業を始める、あるいは、「明日」という名前の食堂を開く、といったところだろうか。はたまた本作は「にがくてあまい」のようなグルメ映画か。

題名に「ごはん」と入っていることもあって本作には所々でご飯が出てくるのだが、葉山たちは健康的な食材や料理を提供するわけではないし、玄米や無農薬野菜を好んで食べるわけでもない。むしろ本作に登場するのは、世間ではやや評判の悪いファストフードが中心だ。

本作は若干長めではあるものの、ポカリスエットとケンタッキーフライドチキンとガストのチーズINハンバーグの合同コマーシャル、といった趣がある。ここまで積極的に宣伝してくれるのだから、企業は制作費の全てを出してもお釣りが来るのではないだろうか。

食べ物のことはさておき、本作を支えているのが上村の人間性であることは疑いの余地がない。

葉山は優しきイケメンだが、自分の意思がはっきりせず非常に頼りない。将来の目標もなく高校卒業後は就職しようと考えていたが、上村と一緒にいたい、という理由から、突然、上村と同じ大学へ行く、と言いはじめる。イケメンの事情が私にわかるはずもないが、一般的に言えば、こういう人はほぼ確実に振られてしまう。

けれど上村の気持ちは、葉山と別々の大学に進学しても、オーストラリアを旅行で訪れても、決して揺らぐことはない。普通は環境が変われば心も移ろいがちだし、私が学生だった頃は、海外へ行った女性が別人のようになって帰ってくることもあった。そんな経験をしたおじさんからしてみると、上村は天使のような存在だ。

しかし残念なことに、本作のドラマはまったく目新しさに欠ける。

本作では、親の不倫、兄弟の病気や死、相手を思っての別れの告白、新しい恋愛で感じる違和感、墓地における偶然の遭遇、等々の使い古されたネタが次から次へと登場する。これらはどれか一つを用いるだけでも、話がベタ、との批判を受ける。だから、そういった素材をてんこ盛りにすることは、通常は行われない。

これは商業主義に徹した結果だ、と原作者たちは言うだろうか。たしかにこのような作りにすれば、「年」1,2本しか映画を観賞しない人は満足させられるかもしれない。しかし本作は、「月」1,2本映画を観る常連客の期待には応えられないだろう。少なくとも私は、こういった話題には辟易している。

ほんのちょっと工夫すれば、本作の水準は全く違うものになった。もちろんその際に、話の骨格を変更する必要はない。題材が良かっただけに、結果はやや残念である。

そのほか、3つほど気付いたことを指摘しておく。

夜、葉山が上村の家を訪れて、2階の窓から顔を出した上村と言葉を交わす場面がある。ここは1シーンなのだから、カットが変わったからといって、途中で葉山の髪をいじるべきではなかった。これは揚げ足取りではなく、観ていてかなり気になるところだ。

大学の近所における葉山と保育士たちとの出会いは人為的である。ほんの少し時間をずらしていれば、印象はもっと良くなったと思う。

葉山は夜の病室で、上村の気持ちが今はじめてわかった、と患者の山崎(=片桐はいり)に打ち明ける。だがいくら葉山でも、この時点でこういった告白をしているようでは、本当にバカである。セリフの内容を見直した方が良かっただろう。

私が本作を観たのは初日の昼(上映初回)だったが、小さなスクリーンが3分の1くらい埋まっていた。本作の完成度からすれば、これでもまずまずではないか。

本作は若き男女の恋を描いたすがすがしい作品だが、ドラマとしては安易な展開が目立つ。滅多に映画を観ないカップルなら、週末に本作を選ぶのもありかもしれない。

原作 瀬尾まいこ「僕らのごはんは明日で待ってる」  監督 市井昌秀  出演 中島裕翔、新木優子、美山加恋、岡山天音、片桐はいり、松原智恵子、ほか

1時間49分

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