ボクの妻と結婚してください。 85点

「ボクの妻と結婚してください。」は自然で素直な作品であり、カップルで観にいくには最適だ。

夜、修治(=織田裕二)は予定でびっしり埋まった手帳を見ている。しかし先の方までめくっていくと、書き込みはまばらになる。

修治はふすまの隙間から妻の彩子(=吉田羊)と息子の陽一郎(=込江海翔)の様子をそっと覗く。2人は楽しそうにバラエティー番組を観ている。

その日の日中、検査結果を聞くために病院へ行った修治は、ステージ4bのすい臓癌にかかっていて余命が約半年しかないことを伝えられた。完治の見込みはなく、薬や放射線治療で延命を図ることしかできないという。

修治は売れっ子の放送作家だ。放送作家の仕事は、世の中の出来事を”楽しい”に変換すること。修治はとても仕事熱心で、いつも番組やネタのことを考えている。妻をネイルサロンに連れていったかと思えば、番組の下見を兼ねていたり、オーケストラの演奏会に行ったかと思えば、待機時間が長いトライアングル奏者を観察していたり、冬に家族と山小屋に泊まりにきたかと思えば、氷点下で涙は凍るのか実験しはじめたりする。

修治は、治療に専念するべきか、あるいはこのまま仕事を続けるべきか、いろいろと頭を悩ませるが、何かしっくりこない。そんなある日、スタジオで自身の担当するバラエティ番組を見守っていると、腰のあたりに強い痛みを感じる。このとき改めて死期が迫っていることを実感し、妻のために何か出来ることはないかと考えはじめる。そんな中、街を歩いていてふと顔を上げると、Angel Marriageという結婚相談会社の「バツイチの私でも大丈夫!」という看板が目に留まる。修治はそのことが頭に引っ掛かっていたが、健康ランドでマッサージチェアに座っていると、またもテレビで同じ宣伝が流れる。すると修治は、これだ、とひらめき、残りわずかな時間を使って妻の結婚相手を探すことを決意する。

ネタバレなしの感想

本作の題名は「ボクの妻と結婚してください。」というきわめて奇想天外なもので、まるで現実感がないというか、ふざけているとしか思えない。本当に癌を宣告されたなら、そんな展開はありえないだろう。また予告編からして不真面目で、原田泰造の「ボクはまだ結婚なんて」というセリフを聞いたときには、これは少しわざとらしい喜劇ではないか、と勝手に思い込んでいた。しかし実際のところ、本作はきわめて真面目な作品であり、死を笑いに変えるといったバラエティ的要素はほとんどみられない。

妻の結婚相手を探そうという修治の試みは非現実的で独善的と思われても仕方ないが、本作を観ていくうち、そういった感情は消えてしまう。そしてむしろ、修治の姿勢に心から共感し、さわやかな気持ちになる。おそらくそう思えるのは、修治の人柄が誠実であり、本作がそれを自然な流れの中で的確に伝えたからであろう。

本作は脚本の都合上、俳優たちの力量に大きく依存している。しかし彼ら、特に大人たちは、抜群の演技を見せ、本作を成功に導いた。

また、本作は非常に上手く構成されている。無駄な場面はほとんどないといってよく、結末に向かって力強い積み上げが行われる。若干、修治と陽一郎のやりとりのあたりで中だるみが見られるものの、後半になっても基本的に息切れすることはない。しかも最初から最後まで観客を泣かせるような場面が、これでもかと繰り返され、最後の方まで観ると、もうなんだか我慢比べのようになってくる。

本作は基本に忠実であり、ほぼ全ての場面が自然に撮られている。すなわち、物事は一つ一つ丁寧に描かれており、脚本家の都合で作為的に展開されることもない。

しかしながら、本作も完璧とはいえず、2カ所ほど例外がある。

まず、彩子がバッグを床に投げつけると、なんとも不可解なことが起こる。あそこまでやってしまうと脚本家の顔がちらつくから、適当なところでやめておけばよかっただろう。

もう一つ、修治が倒れて運ばれる場面がある。このとき修治は疲労困憊だったから理解できなくもないが、まさに絶好の瞬間に倒れるため、ご都合主義との批判は免れない。横着をせず別の日にずらした方が、ずっと理にかなっていた。そうすると話のつながりが弱くなってしまう、と反論されるかもしれないけれど、話の流れが嘘っぽいと集中して観られなくなってしまう。

加えて細かい点まで指摘するなら、脚本家は陽一郎を子供扱いしすぎである。陽一郎はもう小学5年生なのだ。だからあんなにべったりと彩子に甘えないだろうし、修治の胸を叩くところも子供っぽい。また、土手に寝そべりながら陽一郎が修治に言うセリフの第一声にも違和感がある。こういった言動は、陽一郎が小学校低学年であれば正当化されただろう。

本作は若干の問題点があるものの、完成度はきわめて高い。ぜひ映画館に観にいきたい。

原作 樋口卓治『ボクの妻と結婚してください。』  監督 三宅喜重  出演 織田裕二、吉田羊、原田泰造、高島礼子、込江海翔、ほか

1時間54分

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