暗黒女子 60点

「暗黒女子」は脚本に一定の工夫が見られるものの、終盤は論理的に破綻している。

聖母マリア女子高等学院の薄暗いサロンにて、文学サークル、1学期最後の定例会が開かれる。テーブルを囲むのは高岡志夜(=清野菜名)、ディアナ・デチェヴァ(=玉城ティナ)、小南あかね(=小島梨里杏)、二谷美礼(=平祐奈)の4人。会長の澄川小百合(=清水富美加)は少し離れたところから会を進行する。

休暇前の定例会では闇鍋を楽しむのが恒例となっていた。澄川が電気を消すと、テーブルの4人は鍋を取り分けて食べはじめる。具材は1人1人が持ち寄ったもので、前回は苺だいふくを入れた部員もいたらしい。今夜、鍋の中身を知っているのは澄川だけであり、食後にはデザートも用意されている。

澄川の進行で定例会は朗読へと移る。今回澄川が特別に設定したテーマは、白石いつみ(=飯豊まりえ)の死であった。白石は学院の屋上テラスから飛び降り、花壇の中で死亡した。そして死んだ白石の手には、すずらんの花が握られていた。

この中の誰かが白石を殺したと噂されている、と澄川は言う。さらに澄川は、白石の死を小説にしてもらうことで死んだ理由や犯人が明らかになるかもしれない、と続け、まず二谷に小説を発表するよう促す。二谷は席を立ち、自作の小説「太陽のような人」を読みはじめる。

二谷は必死に勉強し特待生として学院に入学した。けれど周囲の学生たちは貧しい家柄の二谷を受け入れなかった。そんなある日、二谷がエズラ・パウンドの詩集を手に屋上で立っていると、白石が現れて文学サークルへと誘う。白石は学院の経営者の娘であり、高等部のリーダー的存在だった。

二谷が白石に連れられて文学サロンへ入ると、高岡が元気よく迎える。白石は、高岡は高校生作家であり、デビュー作『君影草』をサークルで翻訳しようという話がある、と紹介する。さらにブルガリアからの留学生デチェヴァ、副会長の澄川、キッチン担当の小南が集まってきた。そのとき二谷は高岡のつけた香水に気付く。高岡によれば、それはフランスから取り寄せてもらったゲランの「ミュゲ」だという。

6人はお茶を飲みながら小南が作ったマドレーヌを食べはじめる。けれど白石はすぐに、おなかが一杯だ、と言って自分のマドレーヌを二谷に勧める。マドレーヌはおいしかったものの、ラム酒がよく効いていたためか、二谷は後で具合が悪くなり戻してしまう。

ネタバレなしの感想

本作はアガサ・クリスティーの某作品に0.5プラス1ひねり加えたようなミステリーである。探偵に尋問された登場人物がでっち上げを聞かせる、というのは推理小説では当たり前の光景だが、本作の面白いところは各人の主張が長く綿密に作り込まれていることだ。それらはどこまでが本当でどこまでが嘘なのかわからないが、先へ進めば進むほど謎が深まってゆく。ちなみに、定例会において私語は厳禁である。

本作の冒頭はライトノベル『僕は友達が少ない(=はがない)』の書き出しにそっくりだ。舞台は本作が聖母マリア女子高等学院で、はがないが聖クロニカ学園。活動場所は本作が文学サロンで、はがないが談話室4。本作の白石いつみは経営者の娘で、はがないの柏崎星奈は理事長の娘。その上、本作とはがないは共に材料持ち寄りの闇鍋から始まり「苺だいふく」を持ってくるようないたずら者がいる。特に、闇鍋に苺だいふく、という導入は珍しいから、おそらくこれは意図的に作られたパロディだろう。

定例会では、二谷、小南、デチェヴァ、高岡、の順に自作小説が披露される。

これらの小説は、二谷は高岡が犯人であることを示唆し、小南は二谷が犯人であることを示唆し、というように規則的につながっていく。ただこうすると小南までは意外性があってよいのだが、デチェヴァ以降はどうしても新鮮味に欠けてしまう。

また二谷、小南、デチェヴァ、高岡と進むにつれて小説の質は段階的に低下し、最後の高岡の作品などは、もはやこじつけに近い。本来ならばむしろ、緊張感を維持するために後半に読まれるものほど内容を充実させる必要があった。

ただこうして参加者たちが平等に扱われていく様子を見ていると、クリスティーによって書かれた某作品を思い出す。序盤でミス・マープルについて触れられていることも気がかりだ。

それでも私は、同じ結末になることはあり得ない、と自分に言い聞かせながら鑑賞していたのだが、あれよあれよといううちに似たような状況を迎えてしまう。

しかしここからが本作の腕の見せ所で、白石が屋上テラスから飛び降りる直前の流れは予想外であった。私はこの場面を見て、こんなのありかなあ、と思ったが、一応筋は通っているから、クリスティー作品に0.5ひねり加えられたといってよいだろう。

ただその後の展開は少々難がある。原作者は0.5ひねりでは足りないと判断したらしく、さらに1ひねり加えようとした。これはクリスティーの別の某作品のおそらくは評判の悪いトリックに似ているのだが、本作はそれよりもさらに無謀なことをしている。もちろん結末を読みにくくすることは大切だが、そのために論理の飛躍を用いてはいけない。作者がミステリーの決まりを守らなければ、観客は作者に上に立たれているという認識がなくなってしまう。

そのほか、気になった点について記述する。

バスローブを着た白石が文学サロンでローズオイルのマッサージを受ける描写は極端だった。気持ちはわかるが、もう少し現実的な表現にできなかっただろうか。

二谷が写真を手に入れられたのはなぜか。たしかに二谷はおじいさんたちの車いすを押しているけれど、そこから写真まではかなり距離がある。病院でのちょっとしたシーンを前もって入れておけば、もっと説得力が増しただろう。

終盤で登場する小説の題名を「Muguet」にしたのはやりすぎだ。クリスティーも外国語ネタを多用しているが、本作の場合はこうした直接的な名前にすると話の現実性がなくなる。ただ私は個人的にはフランス語に疎いので、「ムグエット?」としか読めなかった。これをほかの日本人が聞いたら怒るに違いないが、一応言い訳をしておくと、Poirotもよく作品中で「ポイロット」と呼ばれている。

私が観たのは2日目の夜だったが、中スクリーンはそこそこ観客で埋まっていた。前日がファーストデーだったことを考えればまずまずの滑り出しだろう。上映館が少なくて不便だが、本作はもっと多くの人に観られてよい。

本作はやや頭でっかち尻つぼみだけれど、娯楽作品としてまずまずの水準だ。映画館で鑑賞して損はない。

原作 秋吉理香子『暗黒女子』  監督 清水富美加、飯豊まりえ、清野菜名、玉城ティナ、小島梨里杏、平祐奈、升毅、千葉雄大、ほか

1時間45分

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