ずっと前から好きでした。~告白実行委員会~ 80点

ハニーワークス原作の「ずっと前から好きでした。~告白実行委員会~」は、「好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~」の前作に当たる。いくつかご都合主義が見られるものの、話の本筋はよくできている。

高校の授業が終わり人気の無くなった夕方、3年生の榎本夏樹(=戸松遥)と瀬戸口優(=神谷浩史)は、昇降口で向かい合って立っている。夏樹は、ずっと前から好きでした、と優に打ち明ける。

翌朝、同級生の早坂あかり(=阿澄佳奈)と合田美桜(=豊崎愛生)は、夏樹を家まで迎えに来る。夏樹は元気よく家から出てきて、待たせたことを2人にわびる。3人は談笑しながらゆっくりと学校へ向かう。

話が一段落すると、それで告白できたのか、とあかりが夏樹に尋ねる。夏樹は、それが聞いてくださいよ、と言って回想を始める。

ずっと前から好きでした、と夏樹に伝えられた優は、驚きと照れくささから、しばらく口を開かない。その間に耐えきれなくなった夏樹は、今のは冗談で、告白の予行練習だ、と思わず言ってしまう。すると優はひどくあきれるが、仕返しに夏樹をからかって、笑いながら出口へ歩き出す。優は背を向けたまま立ち止まり、本番は誰にするんだ、と夏樹に尋ねる。夏樹は少し寂しそうな顔をするが、そんなの言えるわけない、練習に付き合ってよ、と言って優を引き留める。すると優は夏樹の頼みを快く受け入れ、2人はラーメン屋へ向かう。

ネタバレなしの感想

本作は「好きになるその瞬間を。」に比べて音楽の使用は地味だが、不自然な展開は大幅に少ない。また期間を短く絞ったことにより、物語としてのまとまりがよくなった。

夏樹と優は幼なじみで家は隣同士、おまけに長期にわたって両思いだ。だから、彼らの脳内にはお互いに関する強力な神経回路が張り巡らされているわけで、もはやこの2人の間に第三者が入り込む余地はない。したがって結論ははじめから見えているが、そこに至る過程の面白さこそが本作の醍醐味である。

実際のところ、高校生は人生経験が少ないから、自信も余裕もない。また高校時代は自我が急速に発達するため、自分の生まれつきの能力や、自分が置かれた社会的状況が受け入れられなくなる。それで、もがいて苦しむのが普通の高校生だと思う。

一方、高校3年生なのに目の前の恋愛にばかりとらわれている夏樹たちは、少し子供っぽく見えるかもしれない。そこに進路の悩み、あるいは自分や周囲に対する失望はほとんど出てこない。だが夏樹たちが恋愛に夢中になれるのは、心に余裕があるからなのだ。実際、もし私が高校時代に戻れたら、きっと夏樹たちのようにするであろう。偏差値や進学先は高校生にとっては大問題かもしれないが、大人にしてみれば取るに足らないことだ。また大人は自分の努力で解決できることが決して多くないことも知っている。中高年が本作を観れば、夏樹たちの高校生活を羨ましく思うに違いない。

しかしながら、さすがに優は高校生としてはあまりに出来過ぎている。イケメンで、背が高く、頭も良く、自信と余裕に満ちあふれ、おまけに思いやりがあって…、もしこんな高校生が存在したなら、受胎告知級の重大事象である。これは、高身長なイケメン高校生の中に人生経験豊富なおじさんが入ったような状態で、いわば名探偵コナンの高校生版だ。ただし、中高年はこの点にいちいち噛みつかず、素直に夢の実現として楽しむのが懸命であろう。

夏樹たちはCDやDVDやゲームが大好きで、しょっちゅうそれらを貸し借りしている。何かあるとすぐDVDだから、見ていて少し笑ってしまった。でもよく考えれば、私もそういうことがあったかもしれない。だから、DVDも案外適切な小道具だろうか。

しかし本作には問題点もあり、それらのほとんどに綾瀬恋雪(=代永翼)が絡んでいる。

夏樹が恋雪とライブへ出かけるのは不可思議だ。夏樹は高校3年生なのだから、同級生の男子がわざわざライブに誘ってくれることの意味はわかると思う。普通の高校生が「君の名は。」が観たかったとして、好きでもない人が取ってくれた券で一緒に観にいくだろうか。さらに夏樹は、デート当日にめかし込んで外出する。でも一体誰にきれいな自分を見せるのか。こういったことに気付くのがライブの最中では、通常の高校生の感覚からすれば遅すぎる。

ライブからの帰り道に優が絶妙なタイミングで現れるのもいただけない。いくらなんだって、優はあんな中途半端なところで夏樹の帰りを待ってはいないだろう。ほんの少し工夫するだけでこの場面の印象は全然違ったと思う。例えば、公園のベンチで待っていた優が2人に近づいてきた、とすればずっと自然だ。

本作中のバンドやプリンの会社を「ハニーワークス」あるいは「ハニワ堂」にするべきではなかった。たしかに架空のバンドや会社を一から作るのは面倒だし、自分たちに関連するものが出てくれば宣伝になる。しかし一般的に、映画の中に原作者自身やその名前を冠する会社が登場して、しかもそれらが主人公たちに大人気、という設定では、観客に不信感を抱かれてしまう。ここは安易に流れず、もう少し踏ん張ってほしかった。

本作はいくつか不自然な点もあるが、質の高い娯楽作品だ。鑑賞して決して損はないだろう。

原作 HoneyWorks  監督 柳沢テツヤ  声 神谷浩史、戸松遥、梶裕貴、阿澄佳奈、鈴村健一、豊崎愛生、代永翼、麻倉もも、花江夏樹、緑川光、雨宮天、ほか

1時間4分

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