ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 35点

「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅(ファンタビ)」は、ハリー・ポッターシリーズのスピンオフとは名ばかりの、典型的なハリウッド映画である。

グリンデルバルドという魔法使いがヨーロッパで猛威をふるう。こうした行いは魔法界の存在をノー・マジ(=アメリカ魔法界の言葉で、”非魔法使い”の意味。イギリスでいう”マグル”)に知られる可能性を高める危険なものであり、海の向こうアメリカでも大きな騒ぎとなっていた。

そんな中、魔法動物学者のスキャマンダー(=エディ・レッドメイン)は、大きな鞄を携え、船でニューヨークに到着する。税関職員が、食べ物や生き物は持っていないか、と聞くと、スキャマンダーはごまかそうとするが、結局、鞄の中を見られることになってしまう。そこで鞄のつまみを回してマグル用に設定し、職員に鞄を差し出す。それを職員が開けると、中にはただ衣類一式が入っていた。こうしてスキャマンダーは無事アメリカに入国する。

一方、ニューヨークのある一角では、レンガ造りの家が派手に壊されていた。その原因を調査する刑事たちに紛れて、アメリカ魔法界の重鎮、グレイブス(=コリン・ファレル)の姿も見える。すると突然、残されていた壁を突き破って何かが現れ、地下に潜り込むと、地面を隆起させながら高速で移動していく。グレイブスは通りへ出て、その行き先を見つめる。

ネタバレなしの感想

本作は人間ドラマというよりは、CGを前面に押し出したアクション映画である。しかもその内容はどこかで見たようなものばかりだ。例えば、「スーパーマン」、「バットマン」、「スーサイド・スクワッド」、「X-MEN」、「ゴーストバスターズ」、「スタートレック」、「メン・イン・ブラック」、「ルーパー」、それに「ポケモンGO」を合わせれば、本作の出来上がりである。お好みで「天使と悪魔」や「ドラえもん」を加えてもいいだろう。

私が観にいった映画館では、巨大スクリーンがほぼ満員であった。この現象は「君の名は。」以来であるから、いかにハリー・ポッターシリーズの人気が高いかをうかがい知ることができる。しかし、そうして休日の朝に集まった彼らが何を見せられたか?そう、(おおよそ)「ゴーストバスターズ」なのだ!!!

強いて言えば、町に飛び出すキャラクターがゴーストではなくモンスターなのが新しいのかもしれない。ただ「妖怪ウォッチ」にしても、「ポケモン」にしても、根本的な発想としては大きく違わないと思う。

「ゴーストバスターズ」風になったことについてはそれなりの理由もあろう。しかし砂嵐(?)の使い手との大乱闘は、個人的には我慢の限界を超えていた。似たようなものを「X-MEN」や「スタートレック」で観たばかりだ。形のはっきりしないものを使えば現代的だと思っているのだろうか。砂嵐を見ると、なんだかごまかされたような気分になる。それならばモンスター対モンスターの方がよかった。

また本作を観て疑問に感じるのは、何でもかんでも魔法で解決できることだ。

主人公たちが魔法を使えることは話の設定からしてやむを得ないと思う。しかし彼らが自力で出来る日常的なこと、例えば、服を着たり、料理を作ったり、くらいは素手でやってはどうだろう。

それに、壊れた設備や建物はすぐに魔法で元通りになってしまう。ただ実際のところ、魔法使いたちは修復のアルゴリズムも知らなければ、元の形も覚えていないだろう。もし、魔法の杖をかざして念ずればかなう、ということならば、魔法学校などいらないのではないか。

また登場人物たちは、「姿くらまし・姿現し(=瞬間移動の術)」を乱用して急場をしのぐことが多い。ノー・マジに正体がばれてはいけない、と神経質になる割には、少しの距離を歩くのも億劫らしい。こうした姿を見る限り、魔法界を危機に陥れているのはグリンデルバルドというよりも、個々人の意識の低さであろう。

しかしそもそも、ノー・マジの記憶が魔法や魔法動物の力で簡単に消せるのは困りものだ。「メン・イン・ブラック」のようにひとりひとり尋ね歩く必要すらない。こんな裏技があるのなら、ノー・マジなど気にしなくてもよいではないか。

ヘビの胴体に翼が付いたような魔法動物、オカミーの扱いは少し不思議だった。オカミーは伸縮自在で、広い場所では大きく、狭い場所では小さくなる。しかし、どうして鞄の中では普通サイズなのだろう。空間はかなり余っていたように思う。

ハリー・ポッターのときからしばしば言われていたことだが、連続する場面にもかかわらず、カットが替わったために、出演者の髪型も変わってしまっているところがある。例えば、机の下に潜っていたティナ(=キャサリン・ウォーターストン)が姿を現した後がそれだ。ヨーロッパの映画ではよく見るものの、どうして撮影中に髪の毛をいじってしまうのだろう。

もう一つ、グリンデルバルドの配役は失敗している。もしその俳優にするのなら、はじめから顔を見せておかなくてはいけなかった。映画の最後にひょっこりとトム・クルーズが出てきたら、観客はどう思うだろう?あ、トム・クルーズだ、と思うに決まっている!どうしてそういうことが想像できないのだろうか。裁判がどうとか騒がれてるけど、結局どうなったのかなあ、と余計なことを考えてしまった。

ただ、本作には良いところもある。

俳優たちの演技は全体的に自然で違和感がない。またダン・フォグラーの表情はとても豊かで、冗談を引き立たせていた。

本作の筋書きはぱっとしないけれど、魔法や魔法動物が披露される場面を除けば(ただそうすると残りは限られるが)、人工的な展開は比較的少なかった。

加えて、本作に登場する魔法動物たちはそれぞれ特徴的であり、CGで丁寧に描かれている。

本作はハリー・ポッターのフランチャイズといったところで、並のハリウッド映画である。もし観にいくならば、前もってあまり期待しない方が良いだろう。

脚本 J・K・ローリング  監督 デビッド・イェーツ  出演 エディ・レッドメイン、キャサリン・ウォーターストン、ダン・フォグラー、アリソン・スドル、コリン・ファレル、ほか

2時間13分

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