オケ老人! 30点

「オケ老人!」は全く現実感のない作品である。

小山(=杏)は満員のホールで、オーケストラが演奏するベルリオーズの「幻想交響曲」第5楽章を聞いている。それにいたく感動して、演奏会が終わるとスキップしながら家へ帰る。町には最近引っ越してきたばかりで、部屋には引っ越し屋の段ボールや紐で束ねられた本が積まれている。

その夜、小山はパソコンに向かい、「梅が岡交響楽団」と検索する。すると、梅が岡交響楽団のホームページが一番上に表示される。そこに入ると昔ながらの素朴なページが現れ、団員募集、と書かれていた。そこで小山が連絡先に電話をかけると、高齢の男性が出てくる。小山は、学生時代にヴァイオリンをやっていた、と自己紹介してから、入団の希望を伝える。男性は少し驚きながらも小山の入団を快諾し、次回の練習に招く。

当日、公民館に一番乗りした小山は、音楽室の16:00~19:00に梅響の予定が入っていることをホワイトボードで確かめる。それから座って待っていると、楽器を持った高齢者たちがちらほらと集まってくる。中には歩くのがおぼつかない者もいる。小山は徐々に不安になってきて、再びホワイトボードを確認しに行く。見ると、音楽室の13:00~16:00に「セックスソルジャーズ」の名前が入っているが、小山は首をかしげる。そこへ梅響の指揮者、野々村(=笹野高史)が現れ、小山に声をかける。小山は先日の演奏会で感銘を受けたことを伝える。野々村は少し考えてから、それは「梅が岡フィルハーモニー」の演奏会で、自分たち梅響はよく間違えられるんだ、と答える。どうやら、野々村は梅フィルを毛嫌いしているようだ。小山は呆然とするが、そのまま練習に参加する。

ネタバレなしの感想

オーケストラ、ブラスバンド、合唱団、さまざまなアマチュア音楽団体に関する映画が作られてきた。しかし本作の題材は、従来のそれに輪をかけて難しい。まず、梅響の団員たちはみなかなり高齢であり、健康に不安のある者もいる。加えて、冒頭で披露される彼らの演奏はお世辞にも上手とは言えない。だから普通に考えれば、これから一流のアマチュアになることは不可能なのだ。

では本作がこの問題に正面から取り組んだかといえば、そんなことはない。この手の映画のおきまりで、彼らはある時を境にめきめきと腕を上げはじめる。私だって何歳になっても努力すれば向上すると思いたいが、現実はそう甘くない。だから、超常現象的な技術の上達よりも、もっと現実的な進歩を見たかった。

また上記以外にも、本作は不自然な点が多すぎる。

そもそも、小山は教師というより学生のようだ。教師の仕事は過酷であり、中学や高校の若手教員ともなれば、土日は部活の指導で潰れてしまうことがほとんどだ。だから毎週のように梅響の練習に出ることは難しいだろうし、団員を指導するための勉強時間も取れそうにない。それに、教師が生徒に舐められると、授業は立ちゆかなくなる。私が学生時代に塾でアルバイトをした経験から言えば、やさしさは大人の社会では大歓迎だが、子供の集団に安易に使うと自分の首を絞めることになる。生徒と友達になるなど、もってのほかだ。

小山の教え子の和音(=黒島結菜)と同僚の坂下(=坂口健太郎)の役割は、あまりに超越的である。これを脚本家は、無駄がない、と言うのかもしれないが、観ている方としては漫画を見せられたような気持ちになる。

梅フィルのコンサートマスターである大沢(=光石研)とその取り巻きの扱いもひどい。まず、彼らのいかにも悪役然とした言動はこれ見よがしで現実感がない。しかも彼らだけが極端な態度を取るから、その姿が際立ってしまう。また大沢が団員を引き連れてオーケストラを去る様子もいただけない。辞めるにしてもその場でぞろぞろと付いていくのは非常識だし、椅子や譜面台の片付けはどうするのだろう。オーディションにおける大沢の一言も余計だった。

フランス人指揮者、ロンバール(=フィリップ・エマール)に絡む出来事もこの上なく不可解だ。ロンバールは全く英語が話せない。しかし指揮者ともなれば、英語やフランス語はもちろんのこと、ドイツ語やイタリア語も使えなければ商売にならないだろう。このような設定にした理由は後に明らかになるのだが、その際も脚本家のご都合主義に驚かされることとなる。また、ロンバールが現れる時と場所は、しばしば都合が良すぎて、あまりに芝居がかっている。もう少し自然に見せる工夫がほしかった。

最後の場面もやりすぎだ。映画はもっと普通に撮ればよいのではないか。こういった演出は、決して作品の完成度を上げるものではない。

演技に関していえば、坂口健太郎と萩原利久は改善が必要だと思う。もっと自然に話せるようになりたい。ただそのほかの俳優たちは好演し、そのおかげで本作は何とか形をとどめた。

もう一つ本作が優れているのは、随所でちょっとした冗談が楽しめることだ。それらは日本のものらしく、優しくてハリウッドのものとはひと味違う。

本作には良いところもあるのだが、あまりにも問題が多い。映画館で観る必要はないだろう。

原作 荒木源『オケ老人!』  監督 細川徹  出演 杏、黒島結菜、坂口健太郎、笹野高史、ほか

1時間59分

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