ジャック・リーチャー NEVER GO BACK 55点

「ジャック・リーチャー NEVER GO BACK」は「アウトロー(2012年)」の続編である。軍人がらみの古典的な作品だが、細部への配慮はある程度感じられる。ちなみに、本作と前作はほぼ独立しているから、事前に予習する必要はない。

カウボーイハットの保安官が人混みをかき分けて前へ出ると、2人の男たちが倒れていた。ひき逃げでも起こったのか、と保安官は尋ねる。すると近くの者が、喧嘩をして1人の男にやられた、男はまだあそこにいる、と答えて、食堂の中にいるリーチャー(=トム・クルーズ)を指し示す。

保安官たちは食堂の中に入ると、暴行の容疑でリーチャーに手錠をかける。あの2人が証言すれば、10年から20年の懲役だな、と言ってにやにやと笑う。

黙って聞いていたリーチャーが突然話しはじめる。

次の90秒で2つのことがおきる。まず電話が鳴り、お前はそれを取る。話し終わると警察が到着し、お前たちは手錠をされて、刑務所に送られる  

するとそれは現実のものとなる。手錠を解かれたリーチャーは、1人で食堂を後にする。

ネタバレなしの感想

この手の話は何度も映画化、テレビドラマ化されてきた。リーチャーが好意を寄せるターナー少佐(=コビー・スマルダース)は正義の軍人である。しかし軍内部の不正を暴こうとしたところ、何者かの指示によって拘留されてしまう。何と昔ながらのベタな話だろうか。

英国人作家リー・チャイルドの手によるジャック・リーチャーシリーズの第1作は『Killing Floor(1997年)』であり、第21作『Night School(2016年)』までがすでに刊行されている(2016年11月13日現在)。

前作と本作は、その第9作『One Shot(2005年)』と第18作『Never Go Back(2013年)』を映画化したものであるから、実のところ、原作はかなり新しいのだ。

前作でリーチャーは女性を寄せ付けなかったけれど、本作はなんとリーチャーのナンパで始まる。これを一貫性がないとする向きもあろうが、『One Shot』から『Never Go Back』までは8年が経過しているから、致し方ないのかもしれない。

本作は、そもそも主題に現実感がないけれど、ご都合主義を排除しようと一定の工夫がなされている。

とても良い場面がある。リーチャーたちはある少女の家に赴く。しかし少女はなかなか見つからず、リーチャーは起こりえた可能性に思いを巡らせる。そのうち最後のものは、アニメのように現実離れした展開だから、それを見たときは嫌な予感がした。ところがそれは杞憂であり、実際に採用されるのは、これしかない、というおそらく唯一のまともな選択肢である。

二つの大きな出来事が都合良く重なることもさほどない。リーチャーたちがワシントンDCやニューオーリンズであちこちうろつく姿は、一見泥臭いようだけれど、こうすることによって話しは自然さを保っている。反対に、町へ買い出しに行ったら、偶然探していた人物の噂を聞いて、という展開は、どことなく嘘っぽいだろう。

しかしながら、いくつか例外もある。

まず、刑務所の場面はいただけない。リーチャーが行動を起こそうとする、まさにそのとき、2人組の男が突然現れるのだ。彼らはその後の展開を盛り上げるために招集されたわけである。しかし、ここはただでさえ裏技を使ってしのがなくてはならないのだから、奇跡に奇跡を重ねてはいけなかった。

後半のお祭りもない方が良い。こちらも娯楽性を高めるための演出だが、人手が必要ならば、いくらでもほかに方法がある。映画の中で起こることを、偶然、の一言で片付けてはいけない。観客は脚本家の怠慢を決して許さないだろう。

リーチャーの描き方に関しては、前作から改善されたところもあるけれど、いまだに課題も多い。

リーチャーは頭脳明晰でありながら、どこか抜けているところがある。例えば、あるときメモを残すが、その内容は明らかに不十分であり、のちのち大事故につながることが丸見えだ。本作を観る限り、抜けていることはリーチャーの個性ではない。そのため、思慮の足りないメモ書きに作家の意図が透けて見えてしまう。

リーチャーのアクションにも不自然さがある。下っ端の敵はリーチャーが1、2度殴れば気絶する。彼らは大抵、筋肉隆々のマッチョマンだ。しかし細身のボス敵は、リーチャーが叩いても叩いてもなかなか倒れない。

一方で、カメラワークは前作に比べて大幅に向上しており、迫力のあるアクションシーンを撮ることができた。このようにアクションが普通になったことで、逆につまらなく思う観客もいるかもしれないが。

本作の結末を見ると、リーチャーに対して思わず突っ込みを入れたくなってしまう。本作も最後の最後で笑いを投入してきたようだ。しかし、リーチャーの自信に満ちた表情を信じるならば、この終わり方も後味の悪いものではない。

本作は、話の本筋は地味でありふれているものの、比較的丁寧に作られている。映画館で観てもよいと思う。

原作 リー・チャイルド『Never Go Back』  監督 エドワード・ズウィック  出演 トム・クルーズ、コビー・スマルダース、ダニカ・ヤロシュ、ロバート・ネッパー、ほか

1時間58分

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