傷物語〈Ⅱ熱血篇 〉 20点

「傷物語〈Ⅱ熱血篇 〉」は、「傷物語〈Ⅰ鉄血篇 〉」「傷物語〈Ⅲ冷血篇 〉」に挟まれたシリーズ第2作である。前作の予備知識なしに理解するのは大変難しく、また内容的にも今一つだ。

夜、降りしきる雨の中で、阿良々木暦(=神谷浩史)はドラマツルギー(=江原正士)と向かい合って立っている。阿良々木は、自分が勝ったら、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード(=坂本真綾)の右足を返してくれるんだよな、とドラマツルギーに確認する。ドラマツルギーは、自分が勝った場合に、ハートアンダーブレードの居場所を教えてくれるのならば、と答える。

その少し前、空は晴れて満月が輝いていた。阿良々木は花壇の縁に座って合気道や野球の本をめくり、ため息をつく。そしてキスショットとの会話を回想する。

ドラマツルギーは吸血鬼だ、とキスショットは言う。阿良々木が、どうして吸血鬼が吸血鬼退治を専門にしているんだよ、と尋ねると、キスショットは、同族殺しの吸血鬼などさほど珍しくもない、と答える  

そのとき、阿良々木は羽川翼(=堀江由衣)に声をかけられる。阿良々木が顔を上げてじっと見つめると、羽川は、ダメだよ、今日は見せてあげない、と言ってスカートを押さえる。それを聞いた阿良々木は、何のことを言っているのか全然わからない、と言いながら激しく動揺する。

ネタバレなしの感想

前作を観ていなかった私にとって、本作の冒頭はまったくもって意味不明であった。最初の阿良々木とドラマツルギーのやりとりは右から左へ抜けていったし、阿良々木とキスショットが話す場面は全く記憶に残らなかった。これは意図的に観客が理解できないように作られた、実験的な作品なのだろうか。

上記のあらすじは、前作の内容も調べた上で本作を観直しながら記述したものだ。私が序盤の流れを把握できなかったのは、4人の人物、あるいは、キスショット、ハートアンダーブレード、などの専門用語が一切の説明もなく次々に登場したことによる。またその後も、阿良々木は何をしているのか、本作はどういった世界を描いているのか、といった基本的な点に関してほとんど説明がないから、視聴は困難を極めた。しかしこういった問題は前作を観ることによっておおよそ解消される。つまるところ本作は前衛芸術でも何でもなく、究極の、一見さんお断り映画なのだ。私は「舞妓Haaaan!!!」の主人公の気持ちがよくわかった。

だが、制作者はお金を出して映画を観る人の気持ちをもう少し考えてほしい。私は本作を最後まで観るのがつらかったし、前作未見で映画館に行った観客はさぞ驚いたのではないだろうか。作品を一生懸命作ったものの内容が面白くない、というのは致し方ないだろう。しかし一部の視聴者を最初から切り捨ててしまっては、制作者として失格である。

また本作は会話と戦闘が交互に繰り返されるだけで、話の筋といえるようなものがほとんどない。

本作の大部分を占めるのは阿良々木と羽川の冗長な対話だ。しかしこれは尺稼ぎの中でも最低の部類に入る。そもそも、羽川を美容整形仕込みの巨乳にして、一体どこの誰が喜ぶというのか。おまけに羽川は恐ろしく自信過剰である。たしかに阿良々木はそんな羽川に付き合っているが、それは阿良々木が羽川に好意を持っているからだ。一方、羽川のことが受け入れられない観客にしてみれば、彼らのやりとりを長々と見せられることは苦痛以外の何物でもない。どうして作者はそんなことがわからないのか。男の私でさえそう思うのだが、作品を作る前に女性やLGBTの意見を仰いでみてはどうだろう。

戦闘シーンもお粗末である。ドラマツルギーが降伏に至る過程はまるで漫才のようだった。あんなやられ方では子供だって納得しない。エピソード(=入野自由)は小学校低学年用のTVアニメに登場する、その他大勢の敵の一人、といったところだ。エピソードとの戦闘では羽川の巡り合わせが一部特殊だったが、結局最後にはドラえもん的な裏技でまとめられてしまった。これでは小さい子供からも突っ込みが入るだろう。ギロチンカッター(=大塚芳忠)の扱いは登場からしてあまりにも雑だ。阿良々木と羽川の談話を適切な長さにしておけば、最後に尺が足りなくなることもなかった。

「noir」や「rouge」といった単語を度々映してその間に時間を省略する手法もいただけない。こうすると話の流れが悪くなり、観客の理解が妨げられる。それに「noir」自体も一度や二度ならばいいだろうが、あまりに繰り返し見せられてはうんざりしてしまう。

本作には丹下健三の「聖マリア大聖堂」などが出てくるから、舞台はおそらく東京である。また阿良々木と羽川の話の内容や街中で車が走っているところからすると、東京が廃墟になった、という設定ではないはずだ。にもかかわらず、阿良々木たちの周辺だけがことごとく無人なのはなぜか。いくら夜中であっても、東京の都心で歩行者に全く遭遇しない、というのは不自然だ。

本作は観客に対する配慮が不十分だし、完成度もきわめて低い。一般には薦められないが、もし本作を観るのなら、少なくとも、前もって前作に目を通しておく必要がある。

原作 西尾維新『傷物語』  総監督 新房昭之  声 神谷浩史、坂本真綾、堀江由衣、櫻井孝宏、入野自由、江原正士、大塚芳忠

1時間8分

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