カラフル 10点

「カラフル」はカタツムリのようにのっそりとしてテンポが悪く、内容的にも見るべきところがない。

主人公(=冨澤風斗)は死んだはずだったが、気付けば真っ暗闇の中を光の方へ向かってとぼとぼと歩いている。

そうして少し進むと、薄暗い地下鉄の切符売り場のようなところにたどり着く。そこでは人々が切符を得るための列を作っていた。

主人公がその様子を見ていると、短パンをはいた小さな子供(=まいける)が駆け寄ってくる。そして流暢な関西弁で、あなたは大きな過ちを犯した罪な魂だが、抽選に当たって再挑戦するチャンスを与えられた、と主人公に告げる。だが下界に戻りたくない主人公は、その申し出を辞退しようとする。しかし子供によると、ボスの決定には誰も逆らえないらしい。子供は、自分の名はプラプラで、主人公の案内役だ、と自己紹介をする。

プラプラは主人公をエレベーターの方へ先導する。プラプラが言うに、それは下界への扉で、これから主人公は小林真という少年になる。真は3日前に薬を飲んで自殺を図った。まもなく死んで魂が抜けるから、そこに主人公が潜り込むのだ。

ネタバレなしの感想

本作は高校生が書いた小説を映画化したような作品であり、最大限良く言っても子供向けだ。主人公の振る舞いには作者のご都合主義があふれ、話の筋も稚拙である。

また本作は、演出までもが精彩を欠く。登場人物たちは動きが遅い上に大層ぎごちなく、まるで出来の悪いロボットのようだ。おまけに話も緩慢で、遅遅として先へ進まない。

小林真になった主人公が病院のベッドで目を覚ますと、そこには真の両親(=麻生久美子、高橋克実)と兄の満(=中尾明慶)のひどく悲しむ姿があった。やがて母親が真の意識が回復したことに気付き、病室は大騒ぎになる。真は中学3年生で、両親と高校3年生の満と共に世田谷区等々力にある一軒家に住んでいた。

主人公は前世の記憶が全くない。主人公の言動には幼さが残るけれど、はきはきと受け答えする様子は担任の沢田(=藤原啓治)や同級生たちをひどく驚かせる。こうしたことから推測するに、おそらく主人公は、真よりもやや垢抜けした同年代の少年であろう。

自殺の前日、真は思いを寄せる後輩の桑原ひろか(=南明奈)が中年の男と一緒にラブホテルに入っていくところを目撃した。さらにその直後、今度は自分の母親がフラメンコ講師と連れだってラブホテルから出てくる。

それにしても安易な筋書きだ。不倫は日常生活では珍しいかもしれないが、映画や小説の中では実にありきたりである。毎週のように同じネタを見せられる観客の気持ちを、作家はもう少し考えてほしい。またそもそも、不倫を小道具的に用いて話を展開しようという姿勢に私は賛成できない。たしかに、私たちの平凡な日常は映画の題材としては起伏がなさすぎる。しかしそれを打破するための手段が不倫では、あまりに短絡的だ。もしどうしても不倫を扱いたいというのなら、不倫を主題として、真っ正面から取り組むべきである。

さらに奇妙なのは、不倫に走った真の母親をひどく軽蔑する主人公が、援助交際をしているひろかにはむしろ好意的なことだ。主人公にとっては真の母親もひろかも赤の他人のはずである。なのにどうして、このように極端な差別が生まれるのだろう。また一般的な中学生の思考からすると、不倫をした自分の母親が許せないのなら、その憎しみは同じ行為をしている他者にも向けられるのではないか。ひろかちゃんはかわいいから特別、というのは風俗店に通うおじさんの理屈だ。このような描き方では、不倫の被害者であるはずの主人公が逆に観客を不快にさせてしまう。

主人公と同級生の早乙女(=入江甚儀)が東急玉川線の線路跡を歩くあたりは、補助的な話にしては長すぎる。本作の本筋はしがないから、観客はただでさえイライラしている。そこへ中学生がだらだらと観光する描写を持ってくるとなれば、大きな反発は避けられない。

後半に入ると、不倫する人にも良いところがある、欠点のない人間はいない、といった言い訳がところどころで出てくる。そうしてなんとなく和解の雰囲気に持っていこうとする。しかしこうした押しつけに、私は強い違和感を感じた。不倫の罪はきわめて重く、一度不倫をした者の信用は一生かかっても元には戻らない。不倫から時間が経ちました、じゃあそろそろ許しましょう、といった生やさしいものではないのだ。ちなみに私の経験上、不倫をする人物は割と演技上手だから、反省する様子を見て真に受けない方がいいだろう。

主人公たちが一家ですき焼き鍋を囲む場面もあまりにお粗末だ。まず、主人公の受験観は中学3年生にしては幼すぎる。思い返せば、本作前半の主人公はもう少し大人びていた。だが不思議なことに、ここに至るまでの間に徐々に幼稚化が進んでしまった。また、主人公は真の体を借り受けている身だ。それなのにどうして、自分はこうしたいんだ、などど勝手な主張ができようか。これらに加えて、さらにどぎつい一発が観客を待っている。

結論はきわめて唐突であるから、観客は納得できないだろう。こんな終わり方ならば、一体何のために2時間も我慢してきたのか。感動を誘う音楽も台無しである。

本作は少なくとも、普通の大人にとっては厳しい内容だ。私はいかなる人にも本作の鑑賞を薦めない。

原作 森絵都『カラフル』  監督 原恵一  声 冨澤風斗、宮崎あおい、南明奈、まいける、入江甚儀、中尾明慶、藤原啓治、麻生久美子、高橋克実、ほか

2時間7分

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