「ラ・ラ・ランド」は前評判に違わぬ秀作である。
29度もある暑い冬の日、LAのハイウェイが渋滞し車は立ち往生している。車内に閉じ込められたミア(=エマ・ストーン)は俳優オーディションの練習をしていた。
やがて前方の車は前へ進むが、ミアは練習に夢中で気付かない。すると後方に停車していたセバスチャン(=セブ=ライアン・ゴズリング)から、しつこくホーン(=クラクション)を鳴らされてしまう。痺れを切らしたセブは左脇からミアの車を追い抜き、その際2人は顔を合わせる。
ミアはワーナー・ブラザーズ撮影スタジオのカフェでレジ係として働く。そこへ有名女優がやってきて、カプチーノを注文する。マネージャーが、お代は結構です、と言うと、女優はチップジャーにお札を入れて店を後にし、待たせていたゴルフカートに乗り込む。
そのときミアは、オーディションの時間が迫っていることに気付いた。だが急いで店を出ようとしたところ、客のコーヒーカップにぶつかってブラウスがびしょ濡れになる。
ミアは青いジャケットを着てオーディションを受けている。しかし途中で事務員が入ってきて、そのままオーディションは終了する。
一方セブが自宅へ帰ってくると、姉が中で待っていた。セブはかつてホーギー・カーマイケルが座ったとされる椅子の上から姉をどかす。姉はセブの将来について案じるが、セブはジャズの道を追求しようとする。
オーディションを終えたミアが落ち込んで部屋に帰ると、ルームメイトたちが夜のパーティーへ誘う。ミアはいったん断ったものの、結局はドレスに着替えて仲間に加わった。
パーティーが終わり、ミアは車を停めていた場所へ戻ってくる。しかしそこは夜間駐車禁止区域だったらしく、車はレッカー移動されていた。
ミアは仕方なく歩いて自宅へ向かう。するとどこからかピアノの音が聞こえてきて、ミアはジャズクラブの扉を開ける。部屋にはグランドピアノがあり、それを演奏していたのはスーツ姿のセブだった。
ネタバレなしの感想
本作はハリウッドの面目躍如たる娯楽作品だ。脚本に特筆すべき点はないが、音楽を巧みに使うことで観客をトランス状態にさせる。また主人公とフランスのパリが関わるなど、古典的なハリウッド映画の趣がある。
私はミュージカル映画があまり得意ではなく、例えば「雨に唄えば」や「ウェスト・サイド物語」を初めて鑑賞したときは最後まで観通せなかった。
しかし本作中の楽曲はどれもポップス調で耳に優しく、また歌いはじめに感じるミュージカル独特の違和感もある程度は軽減されている。本作は近年公開された「レ・ミゼラブル」よりもさらに取っつきやすいと思う。
ただ悪く言えば、本作の音楽は大衆迎合的で奥が浅い。これは世界各国で全世代の人に受け入れてもらうための苦肉の策だと思うが、もっと冒険して感情を揺さぶるような曲を書けなかったのか。
本作の脚本はごく単純なものだ。本作は歌や踊りで勝負する映画であって、物語はその舞台としての役割を任されたのだろう。そしてたしかに、ドラマがベタで安定していると観客は音楽やダンスに集中しやすい。
だがそれにしても本作のストーリーには物足りなさを感じる。私は観終わった後で内容について考えてみたが、実質的なことはほとんど何も思い浮かばなかった。優れた音楽が重厚な物語に絡んでいたら、より良い作品になっただろう。
脚本の細部についてもいくつか指摘しておく。
ミアとセブが再会するまでの流れは恣意的である。特にプリウスのレッカー移動は虫が良すぎた。人工的な再会は決して感動的にはならない。
またミアやセブはなぜここぞというときに記憶を失うのか。人間は約束を忘れることもあるけれど、同じ映画の中でそれを2度、しかも重大な局面で使ってはいけない。加えてミアがセブとの約束を思い出した後にとった行動も不可解だ。脚本家が話を強引に盛り上げようとすれば、その意図は必ず観客に伝わる。
私が観たのは初日の午前だったが、大スクリーンにかなりの人が入っていた。本作の出来ならば会場に足を運んだ観客たちも報われたと思う。帰りがけに私の横を歩いていた親子は、なんとカメラアングルの話をしていた。
本作は脚本が淡泊だけれど、音楽はきれいで癒やし効果がある。映画館で観ても損のない作品だ。
監督 デイミアン・チャゼル 出演 ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、ソノヤ・ミズノ、J・K・シモンズ、キャリー・ヘルナンデス、ジェシカ・ローゼンバーグ、ローズマリー・デウィット、フィン・ウィットロック、ジョシュ・ペンス、ほか
2時間8分