「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」は、福井商業高校チアリーダー部「JETS」の活躍をモデルにして作られたが、あまりに恣意的な展開が多く誠実さに欠ける。
アメリカ、カリフォルニア州。福井中央高校チアダンス部は全米チアダンス選手権大会に挑む。
日本、福井県。福井中央高校に入学した友永ひかり(=広瀬すず)は、2人の友人と共に部活のビラをもらって回る。友人たちがあちこち目移りしていると、ひかりはチアダンス部の机を指さす。
そこへひかりの中学からの友人、山下孝介(=真剣佑)が通りかかる。どうやらひかりはサッカー部に入る孝介を国立競技場で応援したかったようだ。
軽い気持ちで体験入部したひかりたちだったが、チアダンス部の顧問である早乙女薫子(=天海祐希)は、車のナンバー「地獄や(=45 98)」に象徴されるスパルタ教師であった。
早乙女はチアダンスについて説明し、全米大会制覇、という壮大な目標を掲げる。さらに前髪、ネイル、恋愛の禁止などを打ち出して規律を強化する。そうした方針の結果、先輩たちは全員辞めていき、ひかりの友人2人も入部を諦めてしまう。
練習初日、早乙女は部員たちを1人ずつ踊らせた上で、玉置彩乃(=中条あやみ)を部長に指名する。彩乃はダンス経験者である紀藤唯(=山崎紘菜)と村上麗華(=柳ゆり菜)にチアダンスを教えることとなり、他の部員は早乙女から基礎を習うことになった。
彩乃は裁判官の父の転勤で横浜から福井に引っ越してきたが、中学時代にはチアダンス部で優秀な成績を残していた。早乙女はそんな彩乃に期待して今年から指導を厳しくしたようだ。
ネタバレなしの感想
本作は漫画の実写化に失敗したような作品だ。原作が漫画ならば、忠実に再現したものの実写になじまなかった、との言い逃れもできよう。しかし本作の脚本は自前なのだから、全ての責任は制作者にある。出演者たちは好演しているものの、こうした脚本では全米大会制覇の重みが観客に伝わらない。
本作のように運動部を舞台にした作品は一見華やかなようだが、それがまともなドラマになることは極めて希である。最近深夜アニメでやっているバンドものとは異なり、練習場所はいつも学校内だし商業との接点もほとんどない。
そんな中、私たちが使えそうなのは、恋愛や友人との別れ、あるいは進路の悩みといった定番の素材だ。しかし本作ではこれらの要素も半ば放棄され、ほぼ全編を通してチアダンス部の内側で話が進む。こうしたやり方は素直だが、遅かれ早かれネタの不足に苦しむだろう。
また大人によって主導される学校の部活には独特の息苦しさがある。私たちが見たいのは、顧問が部長を決めたり専属のコーチが練習を指導するような受け身の世界ではない。主人公たちはバンドを組んでもいいし、ギャルゲーを制作してもいいが、とにかく主体的に行動してほしいのだ。
このような逆風はあるにせよ、本作はもっと根本的な点で問題を抱えている。
まず一部の生徒たちの描き方が極端に稚拙だ。中央高校の学生たちは比較的地味だが、チアダンス部の先輩だけがそろって今風である。また入部希望者がチアダンスの練習にレオタード姿で参加する意味がわからないし、彼らのねじの外れようは尋常でない。
孝介がサッカー部を辞める流れも取って付けたようだった。孝介は1年生エースであり、サッカーをするために高校へ通っているようなものだ。そんな孝介を中途半端な理由で退部させてしまうと、話はいかにも人為的でわざとらしくなる。
ひかりは決定的な場面に何度も都合良く出くわしすぎだ。孝介がサッカー部員に頭を下げる、あるいは、早乙女が校長(=きたろう)や教頭(=緋田康人)と争う、といった重要なやりとりの際は、いつもひかりが立ち聞きしている。ひかりは座敷わらしか何かか。
チアダンス部員たちの仲間割れも強引すぎた。こうした展開がお約束であることは置いておくとしても、そこへの向かい方が極めて雑だ。もっと話を自然に進める努力をしてほしい。
彩乃たちが校長室を訪れたときに早乙女と教頭が待機しているのはなぜか。関係者を全員集めて手っ取り早く情報を共有させる、といった手法には感心しないが、もしどうしてもやりたいのなら、せめて彩乃に事前連絡をさせるくらいの手間は求められる。
チアダンス部は全国大会の演技前に円陣を組むかどうかも決めていない。こんなところでぐずぐずしているようでは、採点者たちの堪忍袋の緒も切れよう。
3年生に上がったひかりの扱いはあまりに恣意的だった。人を感動させたいのなら、それなりの準備が必要だ。こんな即席の方法では観客の失笑を買うだけである。
アメリカ大会決勝前の早乙女はピン芸人のようだ。本番直前で不安に駆られてぶれる指揮官は大抵失敗するが、早乙女のぶれようといったらもはや規格外である。それでいて、指導者はぶれてはいけない、とコーチに語るのだ。これはブラック・ジョークなのか。
早乙女について上手くギャップを作り出したのはよかった。しかしこういった感動的な場面においても、安易に用いられた偶然が水を差すことになる。
アメリカ人は感じたことをすぐ口にする、というのは日本人の思い込みだ。たしかにアメリカ人は自分を実力以上に大きく見せようとするが、基本的に、人を傷つけるような発言はしない。また日本に来ているアメリカ人は特に外向的な人たちであり、彼らをアメリカ人の標準と考えない方が良いだろう。
結果発表の際、ひかりと早乙女の話がちょうど一段落した頃に他の部員たちがやってくる、という流れは出来過ぎている。こういった展開は安っぽいドラマによく見られるものだ。
後日談もやりすぎだった。ひかりと孝介、そして彩乃と矢代浩(=健太郎)のペアについてはもっと自然なつながりを持たせた方がよかっただろう。
私は本作を2日目の昼食時に観た。公開第一週の日曜昼ということで大スクリーンにかなり多くの人が入っていたが、本作が期待に応えられたとはとても思えない。
本作は主題が少々難しいけれど、脚本はそれにしても未熟である。チアダンスを見たいという人は別として、一般に映画館で観ることは薦められない。
監督 河合勇人 出演 広瀬すず、中条あやみ、山崎紘菜、富田望生、福原遥、真剣佑、柳ゆり菜、健太郎、南乃彩希、大原櫻子、陽月華、木下隆行、安藤玉恵、緋田康人、きたろう、天海祐希、ほか
2時間1分