永い言い訳 55点

「永い言い訳」は盛り上がりに欠けるものの、比較的自然な作品だ。

衣笠幸夫(=本木雅弘)は美容室の椅子に座り、妻の夏子(=深津絵里)に髪を切ってもらっている。テレビが点いていて、幸夫が出演するクイズ番組が流れている。問題が解かれると、テレビの中の幸夫は、熱っぽく妖怪の鵺(=ぬえ)について解説する。幸夫は夏子に向かって、こんな番組消せよ、と言う。いいじゃない、私は観てるんだから、と夏子は答える。鵺がどうとか言って、バカだと思ってるんだろ、と幸夫は言う。夏子は、鵺って何か知らないけど、と返す。テレビはリモコンで消される。あなたの小学校時代の同級生から電話があったから、電話番号を教えておいた、と夏子が言う。有名になるとこうなんだから、電話は事務所に回せっていつも言ってるだろう、と幸夫は不満を表す。でも、知ってる人でしょ?、と夏子が尋ねる。幸夫は夏子から渡された紙を見ながら、そうだけど、と答える。あとさ、電話に出るとき、衣笠です、って答えるの辞めてくれない?、と幸夫が言う。じゃあ、何って答えればいいの?、私はあなたの妻だから、と夏子は返す。幸夫は、君は、連続試合出場記録の保持者と同じ名前に生まれついてないから、わからないんだ、と言う。夏子は、私は、もとの田中っていう平凡な名字より、衣笠の方がいいけど、と返す。こないだ編集者が来たとき、僕のことを、幸夫君、って呼んだろ?、と幸夫は聞く。呼んだかしら、と夏子は答える。呼んだよ、何回も、僕に恥をかかせようとしてるわけ?、と幸夫は責める。恥って、だって私はずっとそうしてきたじゃない、あなたが小説家として有名になる前から、と夏子は言う。てめえで、飯食っていけるようになったからって、いい気になってんじゃねえぞ、って言いたいんだろう、と幸夫は怒る。夏子は、そんなことない、と幸夫をなだめる。

散髪が終わると、夏子は前掛けを外して丸め、テーブルの上に置く。幸夫は夏子に、間に合うのか、と尋ねる。夏子は、間に合わないかもね、と背伸びしながら言う。幸夫は、気をつけて、と夏子に言い、夏子は部屋を後にする。幸夫は思い出したように、明日のパーティーのスーツ!、と座ったまま叫ぶ。夏子は遠くで、寝室のクローゼットにかかってる!、と答える。

幸夫はテーブルの上の携帯電話を手に取り、画面を操作する。そこへ夏子の足音が戻ってきて、幸夫はあわてて電話を戻すが、テーブルから垂れ下がったストラップは大きく揺れている。夏子は、片付け、自分でやっといて、と幸夫に言う。そのつもりだけど、と幸夫は答える。

ネタバレなしの感想

本作は、前半が劇的で素晴らしく、中盤以降もまずまずの出来だ。終わりは奇をてらわず、上手く収まった。少しぎこちない「調子の良い鍛冶屋」も本作の雰囲気には合っている。俳優たちは本木雅弘をはじめとして熱のこもった演技を見せた。2人の子供たちはセリフの棒読みをせず、自然体で演じていた。

しかしながら、本作は前半と中盤の連結が上手くいっていない。

幸夫は、下積み時代から長年支えてくれている妻を裏切っている。また導入部では、幸夫はわがままで子供のような夫、夏子は思いやりがあり忍耐強い妻、として描かれる。もちろん不倫は当事者に全責任があるが、このような極端な描写は幸夫の愚かさをますます際立たせる。普通、このような人物の末路はろくなことにならないが、幸夫は陽一(=竹原ピストル)やその子供たちに会うと、突然いい人に変身する。言うことは正直だが、急に人を思いやるようになり、行動も伴う。さらに、亡くなった妻にも思いを馳せる。しかし、前半の幸夫の描き方からすると、この展開にはかなり違和感を覚える。実際、人間はなかなか変わらないし、中年ともなればなおさらだ。不倫男は、妻が死ねば急にまともな人間に生まれ変わるのだろうか。

また、幸夫の不倫相手もおかしな人だ。彼女は事故で夏子が亡くなったのを知ると、自分はこんなつもりじゃなかった、と落ち込み、幸夫の元を後にする。だがそもそも、不倫は被害者を自殺に追い込むことだってある。事故で不倫相手の妻が死んで、こんなつもりじゃなかった、というのは一体どういう意味か。

中盤以降の展開にはさほど違和感を感じないが、2つ指摘しておく。
まず、子供がバスタオルを巻いて出てくるのが早すぎた。それに小学6年生ともなれば、台所まで駆けていったりしないだろう。

また、終盤に陽一一家が置かれる状況は不自然だ。もう少し別な形で話を展開したかった。

本作は全体としてみると不都合もあるが、きれいに作られている部分も多い。傑作ではないけれど、映画館で観てもよいと思う。

監督 西川美和  出演 本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、深津絵里、黒木華、池松壮亮、堀内敬子、ほか

2時間4分

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面白い映画のレクタングル(大)
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