本能寺ホテル 40点

「本能寺ホテル」は「プリンセス トヨトミ」の制作陣が中心となって作られた。前半はそこそこの出来だが、後半はテンポが悪く退屈である。

倉本繭子(=綾瀬はるか)は旅行鞄を引いて、夏の京都を歩き回る。途中、地元の少年(=加藤諒)から「縁結びスポットで恋人をゲット!」と書かれたチラシを受け取り、河原に座り込んで婚約者の吉岡恭一(=平山浩行)に電話で連絡する。恭一は仕事で手が離せないため、繭子は先に1人でホテルへ行くこととなった。

繭子は偶然目に留まった金平糖屋の暖簾をくぐる。店の中には白い小袋に入った金平糖がずらりと並んでいた。繭子はその中の一つを手にとって、レジへ持ってゆく。店員によれば、この店の金平糖は戦国時代から変わらぬ製法で作られており、かの織田信長も食したと伝えられている。また、舐めるのではなく噛んで食べるらしい。繭子は笑顔で店を後にし、金平糖をボリボリと食べはじめる。

繭子はようやくホテルに到着して、フロントで名前を告げる。しかし受付係(=宇梶剛士)が確認すると、繭子の予約は1ヶ月先に入っていた。また今日は満室なため、部屋を用意できないという。

困った繭子は、ホテルを探して狭い路地をうろつく。すると古風な西洋風の建物が目に入る。近づいてみると、本能寺ホテル、と書かれていた。

ホテルのロビーは薄暗く、中央に置かれたテーブルの上に古ぼけたオルゴールがあった。繭子は興味津々でオルゴールのねじを巻きはじめる。すると接客を終えた支配人(=風間杜夫)がやってきて、そのオルゴールは音が鳴らない、壊れているから、と繭子に言う。繭子は支配人に部屋が空いていないか尋ねる。すると繁忙期にもかかわらず、空室があるという。

部屋の鍵を受け取った繭子は、エレベーターに乗り込み金平糖をかじる。そのときオルゴールが鳴りはじめ、エレベーターは上へと上がってゆく。

エレベーターが開くと、そこは見知らぬ寺の濡れ縁だった。

ネタバレなしの感想

本作は、ホテルのエレベーターが安土桃山時代の本能寺とつながっている、というSF風時代劇だ。しかも繭子が本能寺にやってきたのは、本能寺の変が起こった1582年6月2日のわずか1日前である。これは出来過ぎた話だけれど、設定があまりに直接的だからかえって違和感がない。

本能寺に飛んだ繭子は、濡れ縁に座りこむ森蘭丸(=濱田岳)を見つける。蘭丸は主人の織田信長(=堤真一)が催す茶会の準備で胃がひどく痛むらしい。そこで繭子が蘭丸に胃薬を飲ませると、胃の痛みはたちどころに治まる。蘭丸は繭子がやっかいに巻き込まれぬよう寺から帰そうとするが、同僚の大塚(=田口浩正)に見つかってしまう。そうして客人と間違われた繭子は、信長の茶会に出席することとなった。

この茶会で「楢柴肩衝(ならしばかたつき)」という茶入の名器が登場する。「肩衝(かたつき)」とは茶入の形態の一種で、肩が「衝く(=突く)」ように尖っていることが名前の由来である。「楢柴肩衝」は現在は失われているようだが、「天下三肩衝」の一つに数えられる。

参考

・「肩衝」とは→ 肩衝|茶道入門

・「天下三肩衝」とは→ 唐物肩衝茶入 銘「初花」|Kazz zzaK(+あい。)

この映画は時代ものではあるが、「プリンセス トヨトミ」よりも「映画 ひみつのアッコちゃん」に似ている。繭子は現在と過去を行ったり来たりして信長たちを混乱させるが、最後にはきっちりと役目を果たすのだ。ただあいにく、本作は「映画 ひみつのアッコちゃん」に比べてずっとこぢんまりしている。アッコちゃんは赤塚化粧品を鬼のようにかき回したが、繭子は信長たちと触れ合う程度だ。観客を楽しませるには、もう少し物語に厚みがほしかった。

それにしても本作の主題はやっかいである。歴史を変えると2時間では収拾がつかなくなりそうだが、かといって歴史を変えずに観る人を納得させる方法があるだろうか。

残念なことに、本作は主題から生じる困難を克服するには至らなかった。後半になると話はひどく緩慢になり、安土桃山時代での話は全く盛り上がらずに終わってしまう。観客はこの時点でがっかりしているのだが、その後も追い打ちをかけるかのように現代側での退屈なやりとりが延々と続く。

後半において繭子や信長は「振々毬杖(ぶりぶりぎっちょう)」という町人遊びに興じる。「毬杖(っちょう)」とは、木製の鞠(まり)を槌形(つちがた)の杖で打ち合う遊戯のことだ。また「振々(ぶりぶり」とは、繭子たちが手に持ってぶりぶり振り回している、紐の先に紡錘形の木塊が付いたものをいう。「振々」を使ってやる「毬杖」だから、「振々毬杖」である。

参考

・「毬杖」とは→ 「(左)ぎっちょ」の意味と語源~これって差別用語?~

・「振々」とは→ 正月の遊戯 ぶりぶり|茶の湯 徒然日記

・「振々」の絵→

Girls playing battle-dore. From Ehon Masu-kagami/Sukenobu|yajifun貼交帳

個別の場面について一つだけ指摘しておくと、安土桃山時代の最終場面はのんびりしすぎていた。おそらく繭子たちが話す時間を作りたかったのだろうが、敵も命がけで攻めてきているから、ああやって蘭丸の都合の良いようにはいかないと思う。

本作は不自然な点はそれほど多くないものの、後半はひどく息切れする。ドラマとしては今一つだけれど、「楢柴肩衝」や「振々毬杖」に興味がある人は観にいってもよいのではないか。

監督 鈴木雅之  出演 綾瀬はるか、堤真一、濱田岳、平山浩行、田口浩正、高嶋政宏、近藤正臣、風間杜夫、八嶋智人、平岩紙、宇梶剛士、飯尾和樹、加藤諒、ほか

1時間59分

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