ウルフ・オブ・ウォールストリート 85点

「ウルフ・オブ・ウォールストリート」はかなり下品だが、最後まで観客を飽きさせない。

ジョーダン・ベルフォート(=レオナルド・ディカプリオ)はクイーンズの中流家庭に育ったが、26歳で証券会社を創設し大金持ちになる。美人の妻と2人の子供がいて、欲しい物は何でも持っている。しかし仕事の重圧からか、ドラッグが手放せない。

ジョーダンがウォールストリートに足を踏み入れたのは22歳の時だ。当時は前妻と結婚したばかりで、金に飢えていた。LFロスチャイルド証券に初出勤すると、やり手の仲買人、ハンナ(=マシュー・マコノヒー)の元に配属される。昼食の席でハンナはコカインを吸うと、ジョーダンに仲買人としての心構えを説きはじめる。

株が上がるか下がるかは誰にもわからない。ではどうやって儲けるか。例えば、客が買った株が2倍の値に跳ね上がったとする。でもそれを解約させてはならない。上手く口説いてほかの株に再投資させる。それを何度も何度も繰り返す。客は金持ちになったと思い込んでいるが、それは紙の上での話だ。我々には、手数料が現金で入ってくる  

成功するコツは、1日2度のマス掻きとコカインだ。強いストレスに耐えて頭の回転を速めるためには、これらが欠かせない  

ジョーダンは経験を積み、ついに仲買人資格を取得する。だが仲買人として出社した初日の1987年10月19日「ブラックマンデー」、株の大暴落が起こる。それから1ヶ月も経たないうちに、1899年設立のLFロスチャイルド証券はあえなく倒産してしまう。

ネタバレなしの感想

はっきり言って、本作は高得点を与えたくない類いの映画だ。最初から最後まで、ドラッグやら買春やら不正やらの繰り返しである。ただ批評を書く者としては、作品を公平に採点する義務がある。面白い映画には高得点を付けなくてはならない。

私はそんな複雑な気持ちから、本作がどこかで崩れてくれることを願っていた。しかし、中盤、後半、と進んでも、本作はなかなかボロを出さない。ジョーダンの演説が長く助長に思われたことから、徐々にたるみが出てきたか、と一瞬期待した。だがしばらく聴き続けると、その演説は無駄ではないことがわかり、その後も本作が乱れる気配はない。そうこうするうち、あれよあれよと結末にたどり着き、エンドクレジッツが流れはじめる。

本作は、ジョーダン・ベルフォートの回想録『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を原作とする伝記的映画である。ベルフォートはやり手のセールスマンだから、おそらく、1のものを10ぐらいに膨らまして書いたことだろう。

だがそれでも、本作には独特の魅力がある。

まず、R-18指定の本作は中途半端な映画ではない。

ジョーダンは本作中で、やたらといやらしく女性の胸をもむ。いろいろと思い出してみたのだが、このような映画は今まであまりなかった(ただし専門的なものを除く)。大抵の作品ではそうした場面が訪れると、俳優はできるだけいやらしくならないよう、控えめに触るのだ。その様子はきわめて不自然でぎこちないが、まあ映画だからしょうがないよね、と観客は自らを納得させるしかなかった。だが、本作は違う。ジョーダンは本能の赴くままに胸をもんでいるようだ。こうした制作者の本気の姿勢は賞賛に値する。触られる側の俳優に敬意を払わないといけないとか、嫌われたらどうしようとか、そんなことをいちいち気にしていたら現実的な映画など撮れるはずもない。

また本作の内容は、ある意味、素直である。

今までの金融映画といえば、華々しいもの(買収戦争や金融危機への対応)、あるいは技術的なもの(インサイダー取引や株価操縦)が多かった。本作でもそういった話題は一部出てくるのだが、ジョーダンの商売の基本は、客に電話をかけまくり、上手く言いくるめて株を買わせ、手数料収入で儲ける、というきわめて単純なものだ。客の中には無教養で騙されやすい人だけでなく、高齢で判断力の鈍った人も大勢いただろう。

こうしたジョーダンたちのやり口は一見詐欺まがいのように見える。だが実際のところ、どの証券会社もこれに似かよった方法で利益を出しているのだ。証券会社によっては商品が株そのものではなく金融商品の場合もあろうが、客を口車に乗せて売りつける、という基本姿勢は変わらない。

その意味で本作は、証券業に正面から向き合った珍しい作品と言える。今までの映画はM&Aなどに気を取られ、こうした証券会社の本分を描いてこなかった。

しかし本作はいくつか肝心な点が描けていない。

まず、ジョーダンたちの内面だ。

本作ではジョーダンたちがドラッグを使用し買春に走る姿が頻繁に映される。詳しくは述べられていないが、その原因の一つが彼らの職務内容にあることは想像に難くない。株の仲買人の仕事は非常に厳しいはずだ。大量に電話をかけても、契約してくれる客は、数百件、あるいは数千件に1件といったところだろう。だから彼らは、大きな不安と緊張の中で日々を過ごしていたに違いない。

このあたりの事情は冒頭におけるハンナの言葉の中に見て取れるものの、それ以降はジョーダンたちの成功と会社の拡大ばかりが目立ってしまう。そのため、ドラッグや買春にふける彼らの姿は、単にだらしがないだけに感じられる。さはさりながら、彼らの業務をもっと丁寧に描いていれば、観客が受ける印象は少し違ったかもしれない。

ジョーダンはある事件を境にぷっつりとドラッグや酒をやめてしまう。だがその際の心理描写はあっさりしすぎていた。観客はジョーダンのドラッグパーティーに散々付き合ってきたのだから、もう少し詳しい説明があってもよかっただろう。

もうひとつは、ジョーダンたちが利益を上げ続けられた背景である。

たしかに、ジョーダンは客を騙す詐欺師のような人物だ。しかし一方で、ジョーダンたちの商売が上手くいったのは多くの人が株に興味をもっていたからに他ならず、その原因は当時のアメリカ、そして世界経済が上り調子だったことである。右肩上がりのチャートを目にしているからこそ人々は株に引きつけられ、それによってジョーダンたちに利益がもたらされた。彼らに損をさせられた客も大勢いただろうが、株価上昇の恩恵を受け固定客になった者もいたはずだ。そのあたりの事情については、もう少し公平に描いてもよかったのではないかと思う。

本作は深みに欠けるのが残念だが、娯楽作品として優れている。鑑賞しても損はないだろう。

原作 ジョーダン・ベルフォート『ウルフ・オブ・ウォールストリート』  監督 マーティン・スコセッシ  出演 レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、マーゴット・ロビー、マシュー・マコノヒー、ジョン・ファブロー、カイル・チャンドラー、ロブ・ライナー、ジャン・デュジャルダン、ほか

3時間

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