「ピートと秘密の友達」は「ピートとドラゴン(1977年)」のリメイク版である。話に意外性はないものの、全体的に無難にまとまった。
一台の車が平坦な林道を走っている。後部座席に座った5歳のピート(=レヴィ・アレクサンダー)は、声に出して絵本を読みはじめる。これは子犬のお話です、子犬の名前は……エリオット、とピートが読むと、両親は前部座席から励ます。ピートは続けて、ある日、エリオットは森へ冒険に行きました、と音読する。それを聞いた父親(=ガレス・リーヴス)は、私たちもこれから誰もいない森へ冒険をしに行くんだよ、とピートに語りかける。するとそのとき、道路の脇から鹿が勢いよく飛び出してきて、父親はとっさにハンドルを切る。
車は大破して仰向けに倒れ、湯気が立ち上る。ピートはただ一人車から這い出すと、投げ出された絵本を拾い、リュックの中に入れる。そうして森の方へと歩いてゆく。
ピートが森の中をしばらく進むと、オオカミの群れが姿を現す。オオカミたちは喉を鳴らしてピートに近づくが、突然ピートの背後から、緑色の体毛で覆われた巨大なドラゴンが現れる。それを見たオオカミたちはそそくさと退散する。
ピートもドラゴンに気付き、近づいてくるドラゴンを唖然と見つめる。ぼくを食べちゃうの、とピートは尋ねるが、ドラゴンは友好的な態度を示し手のひらを差し出す。ピートがそれに応じて肉球の上に乗ると、ドラゴンはピートを大事に抱えて空へ飛び上がる。
ネタバレなしの感想
ドラゴンが手を広げたとき、私は固まってしまった。家にいる犬のおかげで、肉球の威力は身にしみている。もし私がピートだったら、その場から一歩も動けず食べられていただろう。
ピートは助けてくれたドラゴンをエリオットと名付ける。それから6年もの間、ピートとエリオットは森で静かに暮らしていた。しかしある日、ピートが森林警備員のグレース(=ブライス・ダラス・ハワード)を目にしたことで、状況は変わりはじめる。
本作の元となった「ピートとドラゴン(1977年)」は喜劇風の実写ミュージカル映画だったが、本作はいたって真面目な実写映画だ。ミュージカルでもない。また「ピートとドラゴン」ではエリオットがアニメで描かれていたのに対し、本作のエリオットはCGになっている。なお、両者のあらすじは異なるらしい。
参考→ https://www.youtube.com/watch?v=vUW0a_I3kxU
本作中でピートが読んでいる絵本「Elliot Gets Lost」は、本作の監督らが本作の米国公開に合わせて出版したものだ。この絵本は森で道に迷ったエリオットという子犬の話であり、ドラゴンは出てこないようである。
このように、もとはコメディだったものをシリアスで作り直したのだから、当然無理は生じる。例えば、本作でエリオットはしばしば透明になるが、これは前作から引き継いだ性質だ。
ただこうした事情は認めるとしても、本作のピートとエリオットはあまりに現実感がなさすぎる。
本作の描写からすれば、ピートは森でグレース以外の人間を見たことがあっただろう。また野生で育ったため、警戒心は相当強かったと思われる。しかし2度目にグレースたちを見た際、ピートはあっけなく無防備になってしまう。このあたりは平凡な子供の気まぐれに見えた。
ピートは6年間も森で生活していたにもかかわらず、肌は白くみずみずしい。超ピチピチである。でも通常ならば、皮膚は日に焼けて浅黒くなっているはずだ。森には日陰があるけれど、毎日外で生活すればどうしても太陽光にさらされる。
おまけに、ピートは森で育ったとは思えないほどお行儀が良い。言葉や振る舞いは一般の子供とほとんど変わらない。またそれ以上に不思議なのは、エリオットが命の危機に追い込まれても、ピートが全く暴れないことだ。あんな状況だったら、普通の子供だって大騒ぎするのではないか。しかしこのときのピートの態度は、まさに常識ある大人のそれである。そんな胡散臭いピートがときおりオオカミのように吠えたとして、観客の心に響くだろうか。
本作は森でドラゴンに育てられた少年の話だから、彼らはどうやって森で生き延びたのか、と観客は疑問に感じると思う。そのため制作者は、ピートとエリオットの食事を適切に描く必要があった。でもピートが森で食したのは少々のキノコだけだし、エリオットに至っては本作中で一度も食べる様子が描かれない。特にあれほど巨大なエリオットが激しく飛び回るのだから、膨大なエネルギーが必要になる。ちなみに、アフリカゾウは1日に200~300キロの草木を食べて100リットル以上の水を飲み、約10回排便するらしい。巨体は維持するだけでも大仕事だ。前作では、エリオットは一応りんごを食べている。
参考→ 動物たちの横顔23「アフリカゾウ豆知識」|東京ズーネット
参考→ https://www.youtube.com/watch?v=s8ql9HPhdA8
結論の部分でも、ピートはやはり脚本家の言いなりだ。それを、超人的な適応能力、と考えればいいだろうか。
本作の物語はありきたりのもので、結末がどうなるかは大体予想が付く。しかし本作はドラマとしてまずまずの出来だ。また話は終始テンポ良く進むから、観客は最後まで飽きずに楽しめると思う。
私が観にいったのは初日の午前中だったが、会場は予想外の盛況だった。「妖怪ウォッチ3」を横目に本作を選ぶ子供たちは、どのような教育を受けているのだろう。小さな彼らの姿がたくましく見えた。
本作は突っ込みどころが多いけれど、古典的で一定の安定感がある。もし観にいくのなら、軽い気持ちで楽しみたい。
監督 デビッド・ロウリー 出演 ブライス・ダラス・ハワード、オークス・フェグリー、ウェス・ベントリー、カール・アーバン、オオーナ・ローレンス、ロバート・レッドフォード、ほか
1時間43分