ポッピンQ 40点

「ポッピンQ」は「プリキュア」の制作陣が中心となって作られたが、不思議なことに、「プリキュア」の水準を大幅に下回った。

高知の漁村に暮らす小湊伊純(=瀬戸麻沙美)は、卒業を翌日に控えた中学3年生だ。朝、伊純は玄関で靴を履き、祖父に声をかけて学校へ行こうとする。そこへ段ボール箱を持った母、恵理子(=島崎和歌子)が通りかかり、洋服はまとめたか、と伊純に声をかける。伊純は、東京で会社をやるだなんて勝手だ、自分はここに残る、と恵理子に言い返す。そして家を飛び出すと、海岸へと続く坂道を勢いよく駆け下りる。

その日の放課後、伊純は100メートル走のタイムを後輩の深町美晴(=田所あずさ)に測ってもらう。一生懸命走るが、自己ベストの11秒89からは少し遅めの12秒ちょうどしか出ない。

2人が制服に着替えて陸上部の部室から出てくると、同じ部の後輩たちとすれ違う。後輩たちは、こんな時期になっても辞めないなんて感じ悪い、きっと三橋ナナ(=戸田めぐみ)への当てつけだ、と伊純の陰口をたたく。これを聞いた美晴は伊純を気遣い、続けて翌日の卒業式の話をする。しかし伊純は、卒業式には出ない、と言う。美晴が、卒業式の前に引っ越すんですか、と聞くと、伊純は、そうじゃないけど卒業式には出ない、と答える。別れ際に美晴は、明日待ってますから、と声をかけるが、伊純は走っていってしまう。

一方、伊純と同い年の3人の少女たちも各地で苦しんでいた。大道あさひ(=小澤亜李)は柔道家の父と合気道家の母の期待に応えられない。友立小夏(=種﨑敦美)は好きなピアノが伸び悩み人前で弾けなくなる。日岡蒼(=井澤詩織)は勉強ばかりの学校生活に嫌気が差す。

ネタバレなしの感想

私は本作の冒頭を観て不思議に思った。宣伝用ポスターにはゲーム風の絵が描かれていたのに、実際に出てきたのは高知なのだ。

卒業式の日の朝、伊純は両親に無理矢理、学校へ送りだされる。駅のホームで学校方面の電車に乗りかけるも怒りが収まらず、とっさに反対方面の電車に飛び乗る。電車は出発し、やがてトンネルに入る。

ここで、オープニングの歌と踊りが始まる。アイドル衣裳(?)を身にまとった伊純たちは、歌に合わせてキレキレのダンスを踊る。

この雰囲気はどこかで見たことがあるような…、と少し考えた。そう、「プリキュア」である。だがこれまでのところ本作の物語はきわめて現実的で、ファンタジーの要素は一切ない。伊純たちはどうやってプリキュア風に変身するのだろう。もしや東京で同じアイドルグループに入るのか。

ここまでの話は文句なしに素晴らしく、先の展開についても希望がもてる。なのに休日のスクリーンはガラガラだった。しばしば映画の商売では、優れた作品が全くといってよいほど売れない。私は切ない気持ちになった。

だがこれは単なる取り越し苦労に終わる。なぜならこれ以降、本作は悪化の一途をたどったのだ。ご都合主義に次ぐご都合主義が繰り返され、話のテンポもきわめて悪い。

「時のカケラ」を拾った伊純たちは「時の谷」へとワープする。その際に用いた小道具は現代的で新鮮だ。しかし少なくとも私は、その場面を見たとき本当にがっかりした。序盤の話が現実感に富んでいたため、そこからの落差が激しすぎたのだ。「君の名は。」の途中でクレヨンしんちゃんがズボンを下げて出てきたような、そういう驚きだった。普通の大人が前提知識なしで本作を観れば、おそらくこういった反応になると思う。基本的に「クレヨンしんちゃん」は「クレヨンしんちゃん」として始めた方が良い。あるいは「君の名は。」の主人公を、徐々にクレヨンしんちゃんにするのだ。そうしないと観客は付いていけない。

時の谷に住むポッピン族の長老(=石塚運昇)は、世界を救ってほしい、と伊純たちに頼む。だが、ここでも観客に衝撃が走る。世界を救う方法、それはダンスを踊ることなのだ。しかも、なぜダンスなのか、という疑問に対して、長老はまともな答えを持っていない。まさに観客の信仰が試されよう。

伊純たちが時の谷に入り込んだあたりから、話の流れはしばしば停滞する。それは伊織たちが大して重要ではないことで長々と話し込むためだ。これでは観客が退屈してしまう。

伊純が謎の悪役レノ(=内山昂輝)に遭遇するまでのいきさつも腑に落ちない。たしかに伊純は蒼ともめるのだが、その会話はちょっとしたものである。それによって伊純があれほど立腹して集団から抜け出すのは不自然だ。脚本家の見えざる手が観客から容易に見えてはいけない。

また、レノの伊純に対する口説き文句は馬鹿げている。中学での陸上大会はもう済んだことだし、伊織はもうすぐ高校に上がる年齢だ。なのにどうしてそのような子供じみた会話が出てくるのか。

伊純が橋を渡るあたりもひどすぎる。映画多しといえども、これほどのゴリ押しは希だ。偶然を一体何個重ねただろう。それに伊純は神ではない。橋を下ろすレバーに迷いなく手をかけるのは不可思議である。

伊純の容姿がおばあさんになったならば、普通は声もおばあさんになるだろう。細かいところだけれど、大人は皆、気になるのではないか。

こうした数々の欠点を有する本作だが、登場人物そのものはよく描けている。伊純、蒼、小夏、あさひ、そして都久井沙紀(=黒沢ともよ)は表情や仕草、また衣裳姿がかわいらしい。5人がそれぞれに悩みを持ち葛藤する姿も魅力的だ。

音楽に合わせた5人のダンスも本作に花を添える。むしろ、これこそが本作の核心と言ってよい。

エンドクレジッツ後の一場面は癖がある。こうしたやり方はハリウッド映画でときたま見られるものの、私は賛成できない。余計な映像を作る前に、本編の脚本を見直すべきだった。

本作は見るべきところもあるが、欠点があまりに多い。「プリキュア」の予行練習といった水準だ。一般には薦められないが、脚本よりもダンス、と思える人は観にいってもよいだろう。

監督 宮原直樹  声 瀬戸麻沙美、井澤詩織、種﨑敦美、小澤亜李、黒沢ともよ、田上真里奈、石原夏織、本渡楓、M・A・O、新井里美、石塚運昇、山崎エリイ、田所あずさ、戸田めぐみ、内山昂輝、羽佐間道夫、小野大輔、島崎和歌子、ほか

1時間35分

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