映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険 20点

「映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」は説明が雑で分かりにくく、ご都合主義的な展開も頻出する。

10万年前、南極。近代的な建造物の中に2本足の小型ゾウ、パオパオ(=浅田舞、織田信成)が2匹いる。1匹の背中から少女カーラ(=釘宮理恵)が、またもう1匹の背中からヒャッコイ博士(=浪川大輔)が顔を出す。

パオパオたちが建物の奥へ進むと、巨大な石像が姿を現した。それを見たカーラは、ブリザーガの骨格があった、と喜び、骨格の額に刺さっていた剣を引き抜く。すると巨大なタコのような怪物、オクトゴン(=八木真澄)がカーラたちを襲いはじめる。ヒャッコイは銃で「音玉」を撃って応戦し、カーラはパオパオに乗って建物の外へ逃げようとする。

しかし入り口にさしかかったとき、カーラはオクトゴンの攻撃を受けて剣を手放してしまう。すると剣はリング(=腕輪)に姿を変え、床の上をはねながら、下に広がる海へと落ちていく。カーラはリングを追いかけて飛び降りるも、パオパオは鼻を伸ばしてカーラの足をつかむ。

10万年後、日本。のび太とドラえもんは自宅でかき氷を食べている。のび太は酷暑に耐えられず、かき氷が食べ放題になる道具を出して、とドラえもんに懇願する。

そこへドラミ(=千秋)から「タイム電話」がかかってきた。ドラミは、今週のドラえもんには人生で最悪の氷難(ひょうなん)の相が出ている、ラッキーアイテムは星印、ペンギンには気をつけて、と伝える。

ぐったりしたのび太を見かねたドラえもんは、押し入れから新聞の切り抜きを取り出す。それには、氷山が北上中、と書かれており、ドラえもんは、この氷山へ行ってかき氷を作ろう、と提案する。

2人は「どこでもドア」をくぐって氷山へやってきた。ドラえもんは「氷ざいくこて」を使って氷を地面から浮き上がらせ、椅子の形に整える。さらに「ふかふかスプレー」で椅子をふかふかにする。そうして2人はたちまち氷の遊園地を作り上げた。

作業を終えたのび太たちは椅子に座って雑談する。ドラえもんは、今から約7億年前には地球全体が氷で包まれたことがあり、それは数千万年も続いたらしい、とのび太に語りかける。それからドラえもんたちは、ジャイアン(=木村昴)、スネ夫(=関智一)、そしてしずかちゃん(=三石琴乃)を誘うことにした。

ジャイアンたちがやってきて、5人はジェットコースターに乗り込む。ジェットコースターは氷山の内部へと進んでいくが、勢いが足りずに谷の部分で止まってしまう。そこでドラえもんたちはジェットコースターから降り、「タケコプター」を着けて辺りを散策する。その途中、のび太はきれいな氷の塊を見つけるが、引き抜いてみると中にはリングが入っていた。

ネタバレなしの感想

本作は最後まで観通すだけでも一苦労である。もし批評記事を書く目的がなかったなら、私は早々にスクリーンを後にしていた。制作者は観る人の気持ちをまるで考えていない。

導入部はまずまずだ。巷では「新ドラえもんはつまらない」などと噂されているらしいが、冒頭でリングが海に落ちるまでの流れは劇的だった。おそらくこの時点で「新ドラえもん」に文句を付ける観客はいないだろう。

しかしこれ以降、年配者たちは「新ドラえもん」の洗礼を存分に受けることとなる。

「旧ドラえもん」でも「ひみつ道具」は活躍したけれど、それはあくまでドラマを補助するものだった。作者は道具の使用に慎重であったし、ドラえもんの道具は万能、という感じもそれほど強くなかった。

一方、本作では道具こそが物語の主役である。

ドラえもんは道具を次から次へと使い、問題を片っ端からやっつけてしまう。だがこんなゴリ押しで話を進めては、ドラマも何もあったものではない。道具を多用すれば子供が喜ぶ、という単純な考えでやっているのなら、「ドラえもん」はさっさと畳んで新しいアニメをはじめたらどうか。

道具があまりに万能な点もいただけない。例えば、氷ざいくこてとふかふかスプレーを使うと、コーヒーカップ、ゴーカート、観覧車、ジェットコースター、など何でも作れてしまう。一体これらはどのような原理で動いているのか。

昔から「ドラえもんがのび太の自立を妨げている」という批判はあったけれど、「旧ドラえもん」の時にはそれが議論になった。しかし本作を観る限り、ドラえもんは明らかにのび太の成長を阻害している。

またドラえもんの倫理観にも疑問がある。冒頭において、のび太は氷山の下敷きになり危うく死にかける。しかし次の日になるとドラえもんは何事もなかったかのような顔をして、のび太たちを昭和基地へ連れていくのだ。これではドラえもんというよりも、ターミネーターではないか。

こうした人命軽視の姿勢といい、道具の安易な提供といい、本作のドラえもんは怖すぎる。もし原作者が藤子不二雄Ⓐならば、最後にのび太が「ドーン!!!!」とやられるパターンだ。

また本作の脚本には不備が多く、観客は話の内容を十分に理解できない。これは、面白いかどうか、という以前の問題である。本作は「ドラえもん」のはずだが、最近公開された「虐殺器官」に匹敵する難解さだ。

第一に、小難しいことをさらっと口頭で説明しても観客の頭には入らない。私はカーラとヒャッコイが何者なのかわからなかったし、スノーボールアースやアトランティス文明とのつながりもよく理解できなかった。カーラはアトランティス人?それとも同時代の他文明の人??それとももっと過去からやってきた人???、という感じで私の頭の中は疑問符で溢れた。終盤でカーラが、ヒョーガヒョーガ星がどうこう、という話を繰り返すから、私はそこでやっと、カーラたちは他の星から地球にやってきた、ということに気付いたのだ。

ヒョーガヒョーガ人とブリザーガの関係はさらにわかりにくい。なぜ古代ヒョーガヒョーガ人はブリザーガを作ったのか、そしてなぜブリザーガは地球に持ち込まれたのか。こういったことも口頭でざっくり伝えられるだけなので、私は鑑賞中に消化しきれなかった。また仮にこのような情報が全て頭に入ったとしても、ブリザーガが地球に放置された理由については言及がないし、地球に住んでいた(?)古代ヒョーガヒョーガ人がどこへ消えたのかも不明である。

パオパオのモフスケが実はユカタンだった、という話も難しい。パオパオは姿が似かよっているから、どれがどれだか区別が付かないのだ。例えば、冒頭でカーラが乗っているパオパオと中盤で乗っているパオパオが同じ個体かどうかも判別しづらい。また冒頭でヒャッコイが乗っていたパオパオはどこへ行ったのだろう。

コンニャクといえば最近よく話題になっているが、本作にもお馴染み「ほんやくコンニャク」が登場する。しかしコンニャクが凍って固くなる、というくだりは虫が良すぎた。ドラえもんたちは「極地探検スーツ」を着ていたからポケットが冷えることはないはずだ。それに万が一ポケットが冷えたとしても、中の4次元空間まで凍結するとは考えにくい。

またそれ以前の問題として、カーラとヒャッコイは冒頭では日本語を話していた。なのにどうしていきなり日本語が話せなくなってしまうのか。それにもしカーラに日本語を話させたいのなら、カーラかあるいは観客にコンニャクを食べさせなくてはいけない。のび太がコンニャクを食べてカーラが日本語で話しはじめる、という流れにしたいのであれば、まず最初にドラえもんの道具で2人の内蔵をつなげておく必要がある。

ペンギン型の怪鳥、ヤミテム(=高橋茂雄)の扱いもひどすぎた。ヤミテムはどんなものにも化けられるという便利な能力を持っており、さらにこれ以上ないタイミングでキレはじめる。

ドラえもんが闇雲にスイッチを押して台が止まるのもおかしい。こういった描写は子供向けというより、子供だましである。

ブリザーガは「もののけ姫」のダイダラボッチ(=デイダラボッチ)と「風の谷のナウシカ」の巨神兵を合わせたような怪物だ。しかし本作は脚本が粗雑すぎて、こうしたパロディーが活きてこない。またブリザーガがスネ夫の一撃で崩れてしまうなら、わざわざ動きを止める必要もなかったのではないか。

戦いの後、カーラはどうしてリングを持っていたのだろう。ブリザーガが崩壊したから、では説明になっていない。大人の私でさえ、ブリザーガに剣を刺したはずなのにどうして?、と不思議に思った。リングを拾う様子を描くなど、もっと丁寧な描写が必要である。

石コウモリの収集物が出てきたときは目を疑った。のび太たちは命をかけて戦ったのに、最後のオチがこんなに適当でいいのだろうか。もう少し知恵を振り絞って、観客を納得させてほしい。

ここまでの話の流れは、冒頭でのび太がリングを拾ったことと矛盾しているように見える。もしかするとその答えは石コウモリの収集物から推察できるのかもしれないが、いずれにしても制作者はきちんと作品中で説明すべきだった。そうでないと、子供はもちろん大人までも混乱させてしまう。

ヒョーガヒョーガ星の光が10万年かけて地球に届いた、という話について同様である。子供にも伝わるよう丁寧に解説しなくてはいけない。

私が観たのは3日目の午前だったが、おそらく私を除いた全ての観客は親子であった。「魔法使いプリキュア」の会場には単独の男性客もいたが、さすがに大人1人で「ドラえもん」は観ないようだ。ちなみに平日の午前であっても、映画館には若者から高齢者までいろいろな人が来ている。

本作はドラえもんの扱いが下手であり、観客に対する配慮も欠けている。本作を映画館で観ることは薦めない。

原作 藤子・F・不二雄『ドラえもん』  監督 高橋敦史  声 水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、三石琴乃、松本保典、千秋、釘宮理恵、浪川大輔、浅田舞、織田信成、遠藤綾、東山奈央、八木真澄、高橋茂雄、ほか

1時間41分

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