海賊とよばれた男 40点

「海賊とよばれた男」は序盤はまずまずの出来だが、そのあとが続かない。

第2次大戦中のある夜、東京は米軍機による激しい空襲を受ける。それに対向して日本側も戦闘機を飛ばそうとするが、燃料が不足しており、2機しか飛ばすことができない。それら2機は航空基地を飛び立つが、数で勝る米軍機の前にあっさりと撃墜される。都心から避難した国岡鐡造(=岡田准一)は、息を切らしながらその様子をみつめる。

終戦から2日後の1945年8月17日、空襲を免れた国岡商店本社に社員たちが集められた。彼らは店主を待ちながら、将来への不安を口にする。そんな中、齢60の鐡造が奥から現れる。そして社員たちを叱咤激励すると、1人の社員も首にしないから安心するように、と言い聞かせる。

店主室に戻った鐡造に対して、側近たちは会社の苦境を訴える。国岡商店は商品の石油が手に入らず、とても今日集まった社員たちを維持できる状況にない。しかも今後はさらに大勢の社員が内地から引き上げてくる。それを聞いた鐡造は、自分が何とかする、と言って、国策会社の石統(=石油配給統制会社)へ出かけてゆく。

石統の社長室において、鐡造は鳥川(=國村隼)に対面する。日本は戦争に負けたのだから、この際、過去の怨恨は忘れて復興のために協力しよう、と言い、日本に残っている石油を自分たちに売らせてもらえないだろうか、と頭を下げる。しかし国岡商店に出し抜かれた過去のある鳥川は、鐡造の要請を拒絶する。

ネタバレなしの感想

本作は2時間×2夜連続のテレビドラマをダイジェスト版にしたような作品だ。前半はわりと丁寧に描かれているものの、後半は時間が足りず、細部の説明に手が回らなかった。

終戦直後、石統と仲の悪かった国岡商店は窮地に立たされる。このあたりの事情は詳しく述べられるが、後半になると、大型タンカー「日承丸」の竣工、イランへの日承丸の派遣、鐡造の最期、と飛び飛びに話が進む。そのため省略される事柄も多く、やや流れをつかみにくい。鐡造の一生を描くには、2時間では短すぎたのではないだろうか。

また本作の演出は大げさである。雰囲気的には、吉野家のCM「築地一号店物語」に少し似ている。ピエール瀧が出るとこういう風になるのかもしれない。

国岡商店が鐡造の妻、ユキ(=綾瀬はるか)を迎える場面は、明らかにやりすぎだった。また海軍のタンクの底をさらう一幕など、従業員の心変わりが極端すぎてわざとらしい。それに、一体誰がタンクの底で作業をしながら歌うのか。息をするだけでもしんどいだろうに。

もう一つ残念なことだが、本作では鐡造の私生活の描写がかなり「技術的」である。

ユキは国岡商店の2階に住んでいたけれど、ある日そこから出ていってしまう。鐡造はそのことを知ると大いに悲しむが、そのあとの様子は何も描かれない。だが、ユキ思いの優しい鐡造のことである。きっと何かやってくれるにちがいない。そう思ってしばらく待つのだが、その件に関しては一向に音沙汰がない。鐡造がユキを追いかけないのは少し薄情な気もするが、妻に離婚されその後独身、という生き方もダサくはないだろう。私はそれでとりあえず納得していた。しかし、本作は衝撃の結末を迎える。今考えてみると、思い当たる節がないわけではないが。

イランのアバダンに日承丸を送り込む際も、突っ込みどころが満載だ。

鐡造はあれほど部下の東雲(=吉岡秀隆)に言われたのに、船員の処遇についてどうしてあのような決定を下したのだろう。日承丸に保険をかける手間は惜しまないのだが、もっと基本的なことができていない。しかしながら、これは出光の「日章丸事件」で実際に起こったことらしい。店主は相当行き詰まっていたと見えるが、それにしてもことが大きいように思う。原作者(あるいは脚本家)もこの点は気になったようで、鐡造に一言言わせている。しかしそれは、いかにも作家の言い訳のように映った。

またイランとの貿易再開を目指すまでの経緯は、もう少し詳しく説明してもよかったのではないだろうか。それについては鐡造がさらっと言及するものの、かなり天下り的である。

上記からもわかるが、鐡造は欠陥のある人物だ。でも欠陥だって個性の一部にはちがいない。だから原作者や脚本家はそれを受け入れて、鐡造の人間性をもっと素直に表現してもよかっただろう。モデルにギブスをはめて感動大作に仕立てる必要はないのだ。

本作は鐡造のほぼワンマンショーであるから、岡田准一が上手くなければ大変なことになっていた。ただ上で指摘したように、岡田の演じるかっこいい鐡造と鐡造の実態との間には、やや隔たりもある。ただし、これは脚本の不備から生じる問題だ。一方で、脇役を務めた熟練の役者たちは、いつもの安定感を見せてくれた。

本作は大ざっぱな部分も多く、鑑賞後にやや物足りなさを感じる。積極的には薦められないが、出光や日章丸事件に興味を持っている人ならば楽しめるだろう。

原作 百田尚樹『海賊とよばれた男』  監督 山崎貴  出演 岡田准一、吉岡秀隆、染谷将太、鈴木亮平、野間口徹、國村隼、ピエール瀧、綾瀬はるか、堤真一、ほか

2時間25分

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