劇場版 艦これ 85点

「劇場版 艦これ」は小難しいものの、初見でも十分楽しめる優れた作品だ。

艦娘(かんむす)とは、軍艦を擬人化した女の子のことである。

1艦の艦娘が轟沈し、海の底へと沈んでゆく  

艦娘たちは、重武装をして海上を滑るように進む。夜戦を挑み、深海棲艦(しんかいせいかん)と呼ばれる敵艦を次々に撃破する。

戦い終わると、敵艦の残骸の中に、光るカプセルのようなものを見つける。カプセルは自然と開き、その中には、かつて深海棲艦により撃沈された艦娘、睦月型駆逐艦2番艦「如月」が横たわっている。

艦娘たちは、鎮守府と呼ばれる、自分たちの基地へ如月を連れ帰る。如月の帰りを知らされた睦月型駆逐艦1番艦「睦月」は、いてもたってもいられずに、如月が検査を受けている部屋の前までやってくる。ずっと如月の帰りを待っていたのだ。そして如月が部屋から出てくると、涙を流して再会を喜び合う。

如月は、秘書艦という特別な任にある長門型戦艦1番艦「長門」らの元へ赴き、帰還の報告を行う。長門は如月をねぎらい、部屋から退室させる。

それを確認した長門は、如月の件をD事案に認定する、と回りの仲間に宣言する。続けて、これは第一級機密事項だから他言しないように、と念を押す。どうやら、如月の様子は正常ではないらしい。

ネタバレなしの感想

冒頭の戦闘場面を見たときには、この話は一体何なんだろうと思った。どうして重武装した女の子たちが海の上を滑走しているのか。足の先はどういう仕組みになっているんだろう。しかも各人の名前がやたらと長い上、全部漢字で覚えられない。

自己紹介の後は、戦闘がしばらく続く。しかもそれは大規模で結構長いのだ。このままだと戦っているだけで上映時間の90分が終わってしまうではないか、と心配になった。

一見すると、この話は少し物騒である。軍事マニアが作ったのだろうか。アニメにも軍事にも特段の興味がない私としては、映画の批評でも書いていない限り、本作を観る機会はなかったと思う。

だがしばらく観ていくと、本作の質がとても高いことに気付く。不慣れな観客が驚くのは、最初の戦闘のときだけだ。その後は人間ドラマが主となり、後半の戦闘はそれに絡めて行われる。そのころにはすっかり本作の世界に入り込んでいるだろう。

かつて如月が沈んだことは本作中で説明される。しかし、その際の様子は具体的に描かれていない。ネット情報によると、2015年の1月から3月にかけて放送されたアニメ版の第3話にその場面があったとのことだ。

本作では耳慣れない単語が出てくるため、すぐに理解が追いつかないこともある。ただそれは制作者側もわかっているようで、鍵となる言葉は何度も繰り返し登場させて観客が覚えられるようにしてくれた。

本作はゲームを元に作られており、映画としては非常に斬新なものだ。世界広しといえども、女の子を軍艦に見立てた作品など、今までにあっただろうか。これを観ると、「アングリーバード」でさえかなり保守的に思えてくる。

ただ、ゲームの設定を引き継いだために起こる不都合もあった。特に気になったのが、整備員や戦闘員として時折登場する妖精さん(?)の存在だ。本作はいたって真面目な話であるにもかかわらず、妖精さんたちは軽くて緊張感がない。艦娘たちが真剣に戦っている最中、艦載機の操縦席に座ったゆるキャラを見せられるのだ。これでは観客たちが苦笑してしまうし、集中も途切れる。一方、妖精さんを無くしてしまえば、艦載機に誰が乗るのか、という問題が生じる。しかし、ふざけた妖精さんを描くくらいならば艦載機は無人の方がよい。あるいは、もっと血の通ったキャラクターを妖精さんにすればよかっただろう。

深海棲艦の正体についてはゲームやアニメで明かされていないため、いろいろな仮説が出されているようだ。でもその謎の一部は本作を観れば解ける。また内容も妥当なものだから、昔からの艦これ支持者も納得できると思う。

艦載機が発艦する際の描写はもう少し何とかならなかったのだろうか。女の子自身が戦艦である、という設定から考えれば、それも致し方なかったのかもしれないが。

もう一つ気になったのは、作戦司令部がもっぱらアナログな道具を使用していることだ。例えば、ソロモン諸島海域のアイアンボトム・サウンド(=鉄底海峡)がしばしば議題に上るが、その説明の際に使うのは、昔ながらの地図と赤マジックである。ハイテク装置はどこか別の場所に備え付けられているのだろうか。

エンドクレジッツが流れる際の歌はよかった。本作の雰囲気にぴったり合っているし、きっちりエンドクレジッツと同時に終わる。

ちなみに、エンドクレジッツの後に一場面が映される。これは意味のあるものだから、ぜひ最後まで歌を聞いてほしい。

私が本作を観たのは初日の午前だった。本編の後に生放送の舞台挨拶が放送されたのだが、私は舞台挨拶があることを知らなかった。でも本編が終わって帰ろうとしたとき、観客の中の誰かが親切にそのことを教えてくれた。助かったと同時に、久しぶりに人の親切に触れてありがたかった。

本作は高水準な作品で、後味も良い。軍事ものやアニメに抵抗がある人も、きっと本作を気に入ると思う。映画館で観ても損はない。

監督 草川啓造  声 上坂すみれ、藤田咲、井口裕香、佐倉綾音、竹達彩奈、東山奈央、野水伊織、日高里菜、タニベユミ、大坪由佳、中島愛、洲崎綾、ブリドカット セーラ 美恵、堀江由衣、川澄綾子、ほか

1時間31分

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