「アングリーバード」は典型的な筋書きの中にも、いくつか新しい要素が見られる。
真っ赤な鳥のレッド(=ジェイソン・サダイキス、坂上忍)は卵を持ってジャングルの中を駆け抜けてゆく。途中、崖から投げ出されて卵が手から離れるが、地面に着地し、なんとか卵を捕球する。しかし着地したのはしなった枝の上で、今度はパチンコ玉のように飛ばされる。湖を泳ぎ、陸地を走ってツリーハウスへやってくる。ドアが開くと中から小さな子鳥が出てきて叫ぶ。続いて父鳥のエドワード(=ハンニバル・ブレス)が奥から現れ、君がこんなに遅刻してがっかりだよ、とレッドに愚痴る。レッドは、正午に届ける約束だから遅刻してない、と言い返す。すると、ちょうどそのとき時計が鳴って正午を告げる。それを見たエドワードは、今遅刻になった、と意地悪に言う。レッドは、大変な思いをして運んできたんだ、と釈明し、卵(実は箱だった!)の中身を開けてみせる。そこにはケーキが入っており、それにリスが頭を突っ込んでいた。エドワードは、君は子供の孵化記念日を台無しにしたんだから言い訳をするな、とレッドをおちょくる。さらに、ケーキの支払いは君に付ける、と言うと、レッドはかんかんに怒って、ケーキをエドワードの顔に投げつける。
ネタバレなしの感想
本作の脚本は大筋ではありきたりのものだが、これはむしろ細部の設定や、冗談、アクション、音楽、などの演出で勝負する映画である。例えば、本作では主人公がいつも怒っていたり、敵が緑の豚だったり、あるいは飛べない鳥をパチンコで次々に飛ばしたりする。これは原作のモバイルゲームに由来するが、こういった設定の映画はありそうでなかった。本作は中盤、豚たちがやってきたあたりで少し中だるみするものの、後半は最後まで一気に駆け抜ける。しかし、一番最後の場面は何だったのだろう。続編につなげようと思ったわけではないだろうが、よくわからない終わり方だった。
本作の欠点は冗談がわかりにくいことだ。例えば、パーティーの場面でダフト・パンクとスティーヴ・アオキを模した豚たちが登場するようなのだが、私はそもそも彼らを知らなかったし、知っていても気付かなかったと思う。また後半において、2匹の豚がこちらを向いて立っていて、「ソーセージ」とつぶやく場面がある。この「ソーセージ」のセリフは英語版では「REDRUM」であるが、これはスティーヴン・キング原作の映画、「シャイニング」に出てくる単語だ。REDRUMの意味は特にないのだが、逆から読むとMURDERとなり、「シャイニング」の中で、取り憑かれた長男がこれから起こる殺人を母親に警告する場面で表れる。また「シャイニング」の別の場面では双子の少女も登場するが、その際にREDRUMとつぶやくことはない。この本作の冗談がわかるだろうか。私は「シャイニング」を観たことがあったが、全く気付かなかった。こうしたパロディーの類いで私が唯一わかったのは、チャック(=ジョシュ・ギャッド、勝杏里)が「X-MEN」のクイック・シルバーに似せられていることだけだった。その他、音楽の選曲などにも意味があるそうだが、こちらも私の知識では足りなかった。
ちなみに、本作が終わって日本語吹き替え版のクレジッツが出たとき、「ほら、ママ、坂上忍、って書いてある!」と女の子(小学生?)が喜んでいた。どうやら、最近の子供は坂上忍を知っていて、漢字も読めるらしい。さらに、レッドの声が坂上忍の声だとわかったのか、あるいは事前に情報が入っていたのかはわからないが、どちらにしてもすごいことだ。
本作の冗談は大人、あるいはマニア向けのものが多く、子供が理解するのは難しい。ただ、それらがわからなくても本作は十分楽しめるようになっているから、映画館に観にいって損はないはずだ。
原作 モバイルゲーム「Angry Birds」 監督 ファーガル・ライリー、クレイ・ケイティス 声 ジェイソン・サダイキス、ジョシュ・ギャッド、ダニー・マクブライド、ほか 日本語吹き替え版 坂上忍、勝杏里、乃村健次、前園真聖、ほか
1時間37分