ワンダーランド駅で 85点

「ワンダーランド駅で」は、会えそうで会えない、を題材とした映画の中で、最も優れたものである。

エリン(=ホープ・デイビス)が病院の夜勤を明けて家へ帰ると、同棲していたショーン(=フィリップ・シーモア・ホフマン)は車に荷物を積んで出ていこうとしていた。ショーンは別れる6つの理由を解説したビデオをエリンに渡す。このようにショーンはエリンの元を去っては戻ってくるということを繰り返しているが、今回は先住民のタントゥーニ族を助けに行くらしい。

エリンはひどく落ち込み、家に入ると床に座り込む。父ルイスがエリンに捧げた「Heart Needs Home」という詩集を広げ、外を見つめる。

病院の事務所では看護師たちがハロウィーンの衣裳に着替えながら雑談している。クリケット(=キャリー・ソーン)は、新しい警備員のボブ(=ポール・ワグナー)に水族館へデートに誘われ、行くと答えたが、乗り気でないようだ。それを聞いたエリンは、水族館はダブルデートにして、女友達の彼氏が現れないから、あなたが送って帰る、ってことにしたら、と提案する。するとクリケットは、その女友達役になってほしい、とエリンに頼む。エリンは母と週末を過ごすため断ろうとするが、思い直して、クリケットの求めに応じる。

エリンは母を空港へ迎えに行く。しかし満員電車に耐えきれず、エアポート駅に着くと、ホームの椅子に座り込む。

ちょうどそのとき、アラン(=アラン・ゲルファント)を乗せた電車が向かいのホームに到着する。そしてすぐに、エリンが通過してきた、アクエリウム駅へ向かって走り出す。

ネタバレなしの感想

会えそうで会えない映画と言えば、「街角 桃色の店(1940年)(のちに「グッド・オールド・サマータイム」や「ユー・ガット・メール」としてリメイク)」の昔から作られてきた。私の若い頃には「めぐり逢えたら」があったし、最近発表された「君の名は。」もその仲間かもしれない。

だがそんな中でも、本作は格別と言える。

この映画は「めぐり逢えたら」よりもさらに軽く、類似作品の中で最も先進的である。エリンとアランの間には必要最小限の接点しかないため、この先を追求することは難しいだろう。

本作は構成的にも素晴らしい。

「ワンダーランド駅で」というのは不思議な題名だが、これはしっかり考えられていて、観客を裏切ることはない。

本ページの一番最後に記したが、エリンたちが使っていた鉄道路線は実在する。アクエリウム駅、エアポート駅、ワンダーランド駅、この絶妙な名前、配置、特性を、制作者は見逃さなかった。確かにワンダーランド駅単独でも素晴らしいが、残りの2駅が果たす役割も本質的である。

また本作はアランを上手く描いた。アランは、勤勉で、知的で、誠実で、と、少し完璧すぎる気もする。ただ、純粋な学問の探究を評価する姿勢は、見ていて気持ちが良い。アランの専攻が海洋生物学だからいいのだ。もしこれがコンピューター・サイエンスだったり、統計学だったり、経済学だったりしたら、私たちはアランを応援する気にはなれなかっただろう。

しかし本作には欠点もある。

まず、カメラワークは上手いとはいえない。カメラは常時ぶれているし、被写体を追うのもややぎこちない。

一つの場面が複数のカットから作られるのはごく当たり前のことだ。しかし本作は撮影と編集が上手くいっておらず、継ぎ接ぎ感が否めない。例えば、冒頭でエリンとショーンが言い争う様子は、かなりぎこちない。エリンは怒っていたかと思えば、次のカットでは今にも泣き出しそうな顔をしている。もう少し計画性をもって撮っていれば、滑らかにつなぐことができただろう。

演技に関して言うと、フィリップ・シーモア・ホフマンはもう一歩だった。ショーンは風変わりな人物だけれど、それを極端にふざけて演じると作品がたるんでしまう。適度なバランス感覚が求められた。

エリンとアランがたびたび接近するのはやや人為的だが、作品の性質からするとやむを得ないだろう。ただ脚本のその他の箇所はもっと自然であるべきだった。

普通、指でつついただけで風船は割れない。演出が短絡的すぎた。

エリンが写真を撮られるところは、いかにも取って付けたようだ。ただ真面目にやるのもおかしい流れだから、写真の話自体ない方が良かっただろう。

バーにおけるエリンとフランク(=ビクター・アルゴ)の偶然の出会い、またそれに続く展開も余計である。これは一体何の役割を果たしたのか。蛇足としか思えない。

お尻に注射をするのは少々わざとらしく感じるが、調べてみたところ、マラリアの場合には実際そのようにすることがあるようだ。

ジュリー(=カーラ・ブオーノ)は花を持ったアンドレ(=ホセ・ズーニガ)の前を通り過ぎる必要があっただろうか。おそらく制作者は軽い気持ちでこの場面を挿入したのだろうが、作品の完成度を下げる以外の効果は得られなかった。

本作は90年代の作品らしく、一見するとLGBTに対する配慮に欠けているように見える。しかし最後まで観れば、その懸念は一応払拭されると思う。

ちなみに、映画に登場した鉄道路線および路線図は現実に即している。ただし、アクエリウム駅、エアポート駅、ワンダーランド駅は隣接していないから、電車のアナウンスは正確ではなかった(各駅停車のみ運行している模様)。

エリンたちが使っていた線はBlue Lineで、ボウドイン駅、アクエリウム駅、エアポート駅、ワンダーランド駅はその上にある。各色の線が密集しているあたりがボストンの中心部だ。

参考→ http://www.mbta.com/uploadedFiles/Documents/Schedules_and_Maps/Subway/frequency-schedule.pdf

またアクエリウム駅は、ニューイングランド水族館の最寄り駅である。

参考→ http://www.neaq.org/visit/

本作で描かれていたように、ワンダーランド駅はきれいな浜辺に隣接しているようだ。

参考→ 夏休み研究その3~ワンダーランドへ|アメリカボストン いとだより

本作は気になる点も多いが、それに耐えうる第一級の発想に基づいている。鑑賞しても決して損はない。

監督 ブラッド・アンダーソン  出演 ホープ・デイビス、アラン・ゲルファント、ビクター・アルゴ、カーラ・ブオーノ、フィリップ・シーモア・ホフマン、ホランド・テイラー、ホセ・ズーニガ、ほか

1時間36分

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