「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」は、脚本がお粗末な駄作である。本作は、YouTubeで公開されている「モンストアニメ」の続編であり、それを事前に観ておかないと理解は難しい。
モンストコロシアムにおいて、焔レン(=小林裕介)、水澤葵(=Lynn)、若葉皆実(=木村珠莉)、影月明(=河西健吾)のチームは白浜太陽、二階堂純、滝井参仗、野田茜のチームと練習試合を行っている。フィールドは桜林である。明が召喚した「神威(カムイ)」は茜が召還した「白雪リボン」の繰り出すツルによって木に縛り付けられる。皆実の召還した「デッドラビッツLtd.」が白雪姫リボンを追跡がてらにツルの一部を切ってくれるものの、神威は依然ツルから抜け出せない。白雪姫リボンが林から飛び出すと、葵の召還した「ナポレオン」が外で待ち構えており、大砲によって撃墜する。神威は何とかツルを破り、純が召還した「桜」を追いかけるが、後ろから伸びてきたツルに足を取られて転倒してしまう。桜が、倒れた神威に剣を突き刺そうとした瞬間、レンの召還した「坂本龍馬」が現れ、桜を打ち倒す。
試合後、葵と皆実は活躍したレンを褒め称える。またレンたちは、かつてチームに在籍していた春馬のことを気にかける発言をする。こうした一連のことから、明はへそを曲げ、今日限りでチームを出る、と宣言する。
そのとき、モンスター召喚ルームで異変が起きる。レンたちが駆けつけると、「エポカ」が現れて助けを求める。レンたちはエポカを追ってきた「ゲノム」に対峙するが、ゲノムはエポカを捕らえ、時空の扉を開かせる。ゲノムと明は扉の向こうに消え、扉は閉じてしまう。
参考→ 映画冒頭10分大公開!「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」
ネタバレなしの感想
私はモンストのゲームをやったことがないし、アニメを観たこともなかった。
そんな立場からはっきり言う。本作は従来からのファンのために特化して作られた、極めて偏向的な作品だ。序盤から理解できないことが多すぎて、私は非常にイライラした。
本作を理解するために必要最小限の情報をアニメからまとめておく。
- 神ノ原中学校に通うレン、葵、皆実、明は、モンストでチームを組んでいる。
- 小学生の頃にレン、葵、皆実と共に行動していた春馬がそこに見当たらないのだが、それは春馬が神ノ原中学を途中で転校したためだ。
- レンも小学校の途中で転校して不在だった。しかし春馬が出ていった少し後に、レンは神ノ原中学に戻ってきた。
- 明は葵たちとは別の小学校出身だが、レンが戻る1年前に神ノ原中学に転校してくる。そして葵、皆実、春馬とチームを作る。
- モンストコロシアムには4DARという拡張現実のシステムが備わっている。その4DARにスマホのモンストアプリを連動させることにより、モンスターが仮想的に表現される。
- 一方で、モンスターの世界は実在する。人間界とモンスター界をつなぐモンスターゲートが開くと、一定の場所(例えば街中のどこか)でモンスターが呼び出せるようになる。開かれるモンスターゲートが巨大であれば、人間界のあらゆる場所でモンスターが呼び出せるようになるようだ。
参考→ 100秒でわかるモンストアニメ、第4話「真夜中のモンストコロシアム」、第38話「Kの真実」
以上はアニメを調べてなんとなくわかることだ。本作だけを観ると理解できないことが多すぎる。
小学生の頃にレンたちと一緒にいた春馬はどこへ行ったのか。明はいつレンたちに合流したのだろう。
レンたちがスマホをいじるとモンスターが出現するのはなぜか。好きな場所でモンスターを召還できるのなら、どうして球場跡に通っているのか。
また登場するモンスターは数が多い上、紹介すらされない。しかも彼らは戦闘シーンでしか出てこないから、記憶に残りにくく、どれがどれだか区別するだけでも難しい。
制作者は観客に予習を求めているようだ。しかし、その姿勢はお門違いである。私は本作を観賞するのに千数百円を支払った。それに応えるのが制作者の仕事ではないか。私は最近、「艦これ」、「魔法使いプリキュア」、「アングリーバード」、など、いくつかゲームやアニメが原作の映画を観たが、それらはいずれも一見さんに対する配慮がなされていた。だが残念なことに、本作からはそれが全く感じられない。
また、モンストのアニメや映画からは商業主義の香りがぷんぷんする。スマホにアプリをダウンロードして指ではじくアニメや映画なんて、単にゲームの宣伝である。それを全くモンストに縁がない人に見せたら、一体どう思われるだろう。少なくとも私は、不快にしか感じなかった。
ゲームは4人まで協力プレイが可能らしいが、この事情によってアニメと映画の脚本は恣意的かつ複雑なものとなっている(上の1から4)。また人間界にモンスターを出現させるための言い訳もひどい。モンスターゲートなんて、いかにも取って付けたような話だ(上の6)。
ミクシィがやるべきは、誰が観ても楽しめるアニメや映画を作ることだった。その結果、モンストに興味を持つ人が増えて、ゲームの売り上げが伸びる、というのが良い循環だろう。アニメや映画=固定ファン用のCM、では、本末転倒だ。
上記の問題は脇に置くとしても、本作にはいろいろと問題が多い。
レンがお尻に入れておいたIDカードがたまたまリーダーによって読み込まれる場面がある。そのときの描写はきわめてお粗末だ。わざわざレンのお尻の高さに、リーダーを作ったのだろうか。映画多しといえども、これほどの子供だまし(≠子供向け)はなかなかお目にかかれない。
スキンヘッドの博士の正体がわかったとたん、取り巻き連中の態度が180度変わるのはなぜだろう。博士はそれ以前からかなりの危険人物だったと思うが、取り巻きたちは博士の何を信じていたのか。
自動運転のくだりもあまりにずさんだ。子供を移動させたいから自動運転、という安易な発想が透けて見える。それに、目的地をプログラムする暇なんてどこにあっただろう。車は敵から逃げる際は全速力なのに、街中に入ると安全運転になる。これもプログラムなのか。車体が防弾になっているのも都合が良すぎる。批評記事を書く目的がなければ、私は間違いなく席を立っていた。
レンたちに宿を提供するおじさんの存在も嘘っぽい。たまたま助けてくれたおじさんが島根の出身というのは、話が出来過ぎている。それに、おじさんは常識ある大人だ。そんなおじさんが子供たちに対してあのように無責任な対応をとるとは思えない。このことはレンたちにとっては都合がいいのだが。この場面についてもう一つ細かいことを言うと、テレビの野球中継において選手たちの動きが止まっていた。
トロッコの場面もいただけない。プロならば、もう少し工夫するべきだ。繰り返しになるが、子供向けと子供だましは同じではない。
神社の天井に赤い竜の絵が描かれていたのだが、あれは「オルタナティブドラゴン」なのだろうか。「欧米か!(タカアンドトシから拝借)」と突っ込みたくなってしまった。
しかしながら、本作にも優れた点がある。それは戦闘シーンが素晴らしいことだ。このことは本作の冒頭だけを見てもよくわかる。ただそれだけに、脚本が不出来なのは残念だ。
私が本作を観にいったのはスマホを持った人で溢れかえる公開2日目の夜だったのだが、上映中は私語がうるさく、上映前にはふざけて前の席を蹴っている者もいた。これは作品の評価とは何の関係もないけれど、長年映画館に通う私にとっても初めてのことだった。
ちなみに、エンドクレジッツの後に一場面あるが、特に意味のあるものではない。
本作は戦闘シーンに見所があるものの、脚本の出来は惨憺たるものだ。ガチャとカードのおまけが、本作の価値の大部分である。一般には決して薦められない。
原作 モバイルゲーム「モンスターストライク」 監督 江崎慎平 声 坂本真綾、村中知、Lynn、木村珠莉、河西健吾、福島潤、小林裕介、水樹奈々、山寺宏一、北大路欣也、ほか
1時間43分