イタズラなKiss THE MOIVE2 キャンパス編 25点

「イタズラなKiss THE MOIVE2 キャンパス編」は、「イタズラなKiss THE MOVIE ハイスクール編」の続編である。本作は3部作における中だるみとしか言いようがない。

斗南大学での授業初日、相原琴子(=美沙玲奈)、石川理美(=山口乃々華)、小森じんこ(=灯敦生)の新入生3人は、キャンパスを歩くとたちまちサークルの勧誘に取り囲まれる。

琴子たちは配られたビラを手に花壇の縁に腰掛けて談笑する。琴子は入江直樹(=佐藤寛太)のことが気になって仕方がない。そのとき、琴子はふと誰かに見られていた気がした。

琴子たちは文学部日本文学科の教室に入る。空いていた席に陣取ると、隣に座っていたのは斗南高校時代の先輩、真由だった。真由は留年してしまい、1年生をもう一度やり直すことになったのだという。教授は歓迎の挨拶もそこそこに、日本文学科は特に留年者が多い、と嘆いて説教を始める。琴子たちが教室を見渡すと、斗南高校3年F組の同級生たちの姿があった。F組と変わらぬ落ちこぼれた雰囲気に、3人はがっかりする。

琴子たちは気分直しに学食へスイーツを食べにきた。理美は、春休みに入江と何かあったか、と琴子に尋ねる。琴子は、春休みにはなかったけど、卒業式の日に入江とキスをした、と答える。

お節介焼きの理美とじんこは、琴子の腕をつかんで理工学部へ連れていく。琴子たちは廊下から入江の教室をそっとのぞき込む。そのとき入江が後ろから声をかけ、3人は意表を突かれる。そうして入江と琴子たちが話をしていると、入江の同級生、松本祐子(=文音)が現れて入江に馴れ馴れしく接する。

別の日、琴子は学食で入江を見つけて後ろに並ぶ。2人は同じ定食を注文するが、盛られた量は明らかに入江の方が少ない。入江がそれに文句を付けると、配膳をしていたのは琴子のF組時代の友人、池沢金之助(=金ちゃん=大倉士門)であった。

ネタバレなしの感想

本作では入江直樹の母、紀子役が石田ひかりから鈴木杏樹に変わっている。石田の降板理由ははっきりしないが、本作のクランクインが2016年4月で、これは石田がNHK-Eテレで「にっぽんの芸能」の司会をはじめた時期と一致する。だからもしかすると、石田は急に入ったNHKの仕事を優先したのかもしれない。あるいは体調不良による降板だろう。ちなみに「にっぽんの芸能」は2011年から続くご長寿番組であり、石田の夫はNHK職員とのことだ。

近所にあるいくつかのシネコンでは本作が上映されていなかった。続編の宣伝をしておきながらその上映を見送るとは、なんたる無責任だろう。それに前作の内容は悪くなかった。だから前作の興行収入がどうであれ、彼らには本作を上映する責任があるのだ。

しかしはるばる遠出して本作を観たところ謎は解けた。本作には有名若手俳優が出ていないから脚本での勝負になるが、その脚本の水準があまりに低いのだ。これではシネコンが上映したくても上映のしようがない。途中で抜けるという石田の判断はきわめて賢明だったと思う。

前作は琴子と入江の恋の駆け引きをあらゆるネタを駆使して丹念に描いた。特に2人の家族が同居するという設定は直接的ながらも巧妙であった。そうして最終場面では2人が両思いであることが明示的に示されたのだ。

前作で琴子と入江が恋人になる過程を描ききったことは潔かったし、単独の作品として考えた場合はむしろそうすべきである。しかしロケットスタートの副作用として、続編における息切れは当然予想された。

また大学を舞台とする本作はそもそも分が悪い。

高校ではいろいろと制約があり、そのおかげて琴子と入江には強制的なつながりができた。学級は違えど授業の内容や試験問題は同じだし、行事や集会への参加は全校生徒の義務である。他方、大学ではこういった縛りがなく、よって生徒たちは快適かもしれないが、ドラマを生み出しにくい環境にある。

さらに高校は小さな村のようなものだ。斗南高校においてF組は自他共に認める落ちこぼれ集団であり、琴子はそこに属していた。一方、学年一の秀才でイケメンの入江は誰もが知り憧れる存在だった。つまり斗南高校における入江と琴子の恋愛は、王と最下層市民の恋愛であったのだ。しかし場所が大学に移れば、特定の学科が落ちこぼれ、あるいはエリートの集まりだとする説明はこじつけに近く、いくら成績優秀なイケメンがいても全校生徒の知るところとはなり得ない。つまり大学生になった2人は、もはや特別な存在ではなくなったのだ。これではシンデレラ・ストーリーは成立しにくい。

こうした逆風の中にあって、原作者は琴子と入江の恋の駆け引きを再び繰り返そうとした。だがこうすると当然、話は出がらしで新鮮味に欠けたものとなる。また弾は前作でほぼ使い果たしてしまったのだから、今回は強引にひねり出した2流の材料を使わなくてはならない。その上、前作でくっついてしまった琴子と入江を無理矢理引き離す必要も出てくる。そうして持ち出されたのが、テニス部への加入、合宿、一人暮らし、喫茶店でのバイト、家庭教師、清里への家族旅行、などのいかにも人工的な話題である。これらの苦しいネタを見ていると、原作者のうめき声が聞こえてくるようだ。

そんな本作をさらに悪化させるのが、松本、金ちゃん、テニス部の須藤先輩(=牧田哲也)の3人である。本作は金太郎飴のようにどこを切ってもこの3人が出てきて、毎回同じように奇抜な振る舞いをする。それを2時間弱も見続けさせられるのは、もはや映画鑑賞というより拷問に近い。

では本作はどうすべきだったかといえば、恋の駆け引きの先に進むほかないのである。だらだらと前作の焼き増しをしていては、どうしてもこのような結果になってしまう。琴子たちももう大学生なのだし、恋人になった2人の関係をじっくり描いた方がよほど生産的ではなかったか。大学生は留学などの機会もあるだろうから、遠距離恋愛も考えられた。あるいはもう一歩踏み込んで、2人に将来の相談をさせてもよかっただろう。これらは第3作に持ち越した、という言い訳は通用しない。本作は独立した映画であるし、第2作で失望した観客が第3作を観に来ることはないであろう。

また本作からは漫画を実写化することの難しさも感じられる。漫画はある程度作り物っぽくても許されるが、ワイヤーや特殊効果を使わない実写は基本的にそうではない。したがって破天荒な漫画を素直に実写化するだけでは、観客に受け入れられにくい。制作者はもう少し柔軟に取捨選択すべきだった。

そのほか、本作は人為的な場面が目立つ。

テニス部の合宿先で入江と松本は夜景を見ながら話し込む。ここはワンシーンだから、カットが変わったからといって入江の姿勢をいじってはいけなかった。

斗南大学にあるタイル張りの壁が大活躍するけれど、なぜいつもこの壁の前で話が進むのか。待ち合わせの場所としてのみ使えばずっと自然だった。

入江直樹の弟、裕樹(=佐藤瑠生亮)が腸重積になったタイミングも都合が良すぎる。その後の展開を考えれば裕樹が病気になったというだけでも胡散臭いのだから、ついでに入江のかっこいい姿も描こうなどという横着はするべきでなかった。

病院における金ちゃんとの遭遇は軽い気持ちで入れたのだと思う。しかしそうすることで得られる利益はほとんどないし、逆に話の恣意性を高めて信頼を損なうことになる。

入江が医学に興味を持つきっかけは非常にあっさりと描かれ、さほど説得力もない。しかし医学の道を志すことは入江にとって重大な方針転換のはずであり、そのきっかけこそ本作が題材とすべきことではなかったか。デニス部や清里でのどんちゃん騒ぎもよいが、もっと人物の内面を丁寧に描いていれば本作は格段に良くなったはずだ。

ちなみに、エンドクレジッツ終了後に一場面待っているが、特に意味のあるものではない。

私が本作を観たのは初日の午前だったが、大スクリーンに客はほとんど入っていなかった。本作の完成度ではそれも仕方ないだろう。

本作は前作の抜け殻のような内容であるが、相当にしつこくドタバタとした作品だ。第3作にのために観にいくという選択もあろうが、前作並みの水準を期待すべきではない。

原作 多田かおる『イタズラなKiss』  監督 溝口稔  出演 佐藤寛太、美沙玲奈、山口乃々華、大倉士門、灯敦生、陣内孝則、石塚英彦、鈴木杏樹、牧田哲也、文音、佐藤瑠生亮、池上紗理依、山口賢人、赤塚真人、向清太朗、栗原類、ほか

1時間44分

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