劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[前編]始まりの物語 85点

「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[前編]始まりの物語」は、2011年の1月から4月にかけてTBS系列で放送された深夜アニメ、「魔法少女まどか☆マギカ」(全12話)の1話から8話までをまとめて再編集したものである。途中やや間延びするところもあるが、脚本には一定の工夫が見られる。

中学2年生の鹿目まどか(=悠木碧)は両親と幼い弟と共に、現代的な作りの大きな一軒家に住んでいる。朝、まどかは余裕を持って起きたはずだったが、のんびりしているうちに時間がなくなってしまい、食パンをくわえながら走って家を出る。

まどかは通学路の途中で同級生の美樹さやか(=喜多村英梨)、志筑仁美(=新谷良子)の2人と合流し、雑談をしながら学校へ向かう。

始業の鐘が鳴ると、担任の早乙女和子(=岩男潤子)は転校生の暁美ほむら(=斎藤千和)を紹介する。ほむらがまどかの方を見ると、まどかは気まずそうに目をそらす。

休み時間になると、ほむらの元に4,5人の同級生が集まる。彼らはほむらに興味がありいろいろと質問するが、ほむらは、自分は気分が悪いので保健室に行く、と言って席を立つ。そしてまどかのところへ来ると、鹿目まどかさん、あなたがこのクラスの保健係よね?、と話しかけ、保健室への案内を頼む。

ほむらがまどかを先導する形で2人は保健室へと向かう。どうやら、ほむらは保健室の場所を知っているようだ。やがて人気のない空中廊下にたどり着くと、ほむらは突然まどかの方へ向き直り、まどかは自分の人生や家族や友達を大切にしているか、と尋ねる。まどかは質問にとまどいながらも、家族や友達は大切だ、と答える。それを聞いたほむらは、もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて思わないことだ、さもなければ全てを失うことになる、と言い残して去っていった。

ネタバレなしの感想

「魔法少女まどか☆マギカ」とは不思議な題名である。まどかとマギカのどちらが名前なのだろう。あるいは「つのだ☆ひろ」のようなものか。

その日の放課後、まどかとさやかはCD屋に立ち寄る。そこでまどかがCDの試し聴きをはじめると、どこからともなく「たすけて」という声が聞こえてくる。まどかは声の元をたどるうち、暗い改装中のフロアに行きついた。そこでいきなり天井の板がはずれ、傷だらけの白い狐、キュゥべえ(=加藤英美里)が落ちてくる。

キュゥべえは謎に包まれた存在だが、その顔は私の犬によく似ている。なんといっても、無表情でガン見してくるところがそっくりだ。「サイコ」のテーマを流すなら、キュゥべえのアップシーン意外にないだろう。

さらに恐ろしいことに、キュゥべえは、自分と契約して魔法少女になってほしい、とまどかたちを勧誘する。

これが普通の「プリキュア」だったら、魔法少女になって世界を救う、マル、で終わりそうなところだが、深夜アニメの本作はそう一筋縄ではいかない。契約には条件があり、それは「願い事を何でも1つ叶えてくれる」ということなのだ。「タダより怖いものはない」という格言があるくらいだから、この提案は何とも不気味で面白い。

このように、子供用アニメに大人向けの要素を導入したところが本作の新しさである。もちろんこれは「セーラームーン」や「プリキュア」など過去の蓄積があってこその効果だけれど、本作が新しい視点を提供したことは評価されてよい。

ただこうした設定も影響してか、本作にはちぐはぐな点も目立つ。

魔法少女の巴マミ(=水橋かおり)は、まどかたちの先輩であり、命の恩人でもある。しかし不思議なことに、中盤以降、まどかとさやかはマミの存在を忘れてしまっているかのようだ。上条恭介(=吉田聖子)の健康を願うさやかの気持ちはわかるけれど、マミのことは考えなかったのだろうか。同じく、まどかもマミのことを気にする様子はさほど見られない。早くマミを助けなきゃ、と慌てふためいたのは私だけだったようである。でもキュゥべえは「どんな奇跡だって」起こせるのだから、まどかたちのやっていることはマミを見捨てる行為だ。こうした不合理な描写では観客を納得させることが出来ない。

さやかを巡っては後半に壮大なドラマが待ち受けている。ただなんといっても、さやかは中学2年生であって精神的に幼い。大人の私もかつては子供だったから、さやかの抱える苦しみは十分理解できる。しかし、想像を絶する苦痛から壮大なドラマが生まれる、というのなら話は自然だが、本作の場合、1の苦しみから10のドラマが引き起こされた感がある。例えて言うなら、飼っていた犬が死んだことにより絶望し、人類を滅亡させるほどの力を手に入れた、という流れに近い。ドラマの重厚さは本作の強みだが、そこで人為性が目立たなければなおよかっただろう。

さえない主人公が魔法少女として特別な素質を持っている、という設定はこの手のアニメではお馴染みのものだ。このとき主人公のまどかを早々に魔法少女にしてしまうと、敵との戦闘を中心に物語を進めることになる。ただこれでは普通の「プリキュア」とあまり変わらないので、本作はまどかが魔法少女になる時期を極限まで引き延ばした。こうすれば、キュウべぇとほむらの対立を軸とした人間ドラマを展開することができる。しかし困ったことに、まどかはいつまでたっても魔法少女にならないのだ。魔法少女になる踏ん切りは付かないけれど、魔女と戦うさやかに付いていきたい、と主張するまどかの姿を何度見せられたことだろう。それにまどかがようやく魔法少女になりかけても、すんでのところでほむらの横やりが入る。え、また!?、と思って笑ってしまった。引き延ばすこと自体はよいと思うが、それがあまりに長すぎると話が人為的に感じられてしまう。

ほむらが最後に真顔で言ったキュゥべえに関する冗談は、おそらく日本語話者にしかわからない。こんな重要なところで大型の冗談を突っ込んでくるとは、制作者はなかなか洒落ている。

本作の筋はやや人工的な部分もあるが、観客を楽しませるためによく練られている。一度鑑賞しても損はないだろう。

総監督 新房昭之  声 悠木碧、斎藤千和、水橋かおり、喜多村英梨、中野藍、加藤英美里、新谷良子、ほか

2時間11分

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