咲-Saki- 25点

「咲-Saki-」は麻雀のルールがわかる人を対象に作られており、それ以外の人が楽しむのは難しい。

21世紀、世界の麻雀人口は1億人を突破した。日本でも大規模な全国大会が毎年開催され、高校生麻雀部員たちもプロに直結する成績を残すべく覇を競っていた。

清澄高校1年生の宮永咲(=浜辺美波)は、同学年の原村和(=浅川梨奈)と出会い麻雀部に入部する。咲は麻雀が得意な姉と上手くいっていないが、全国大会まで勝ち進んで姉と向き合いたいと考えた。

麻雀部員は咲と和のほかに、部長の竹井久(=古畑星夏)、タコス好きの片岡優希(=廣田あいか)、それに広島弁を話す眼鏡の染谷まこ(=山田杏奈)である。

第71回高校生麻雀大会長野県予選が迫る中、咲たちは5人で団体戦に出場すべく強化合宿を張った。

いよいよ本番当日。会場の入り口ではプロ雀士の藤田靖子(=夏菜)がインタビューを受けている。優勝候補の筆頭は龍門渕透華(=永尾まりや)率いる龍門渕高校であり、福路美穂子(=加村真美)率いる風越女子高校も一昨年に優勝した強豪だ。

トーナメント戦の結果、清澄高校、龍門渕高校、風越女子高校、そして鶴賀学園高校が決勝に勝ち上がった。

4校は順に

清澄 龍門渕 風越女子 鶴賀学園
先鋒 片岡優希 井上純(=小篠恵奈) 福路美穂子 津山睦月(=山地まり)
次鋒 染谷まこ 沢村智紀(=金子理江) 吉留未春(=吉崎綾) 妹尾佳織(=長澤茉里奈)
中堅 竹井久 国広一(=柴田杏花) 文堂星夏(=樋口柚子) 蒲原智美(=大西亜玖璃)
副将 原村和 龍門渕透華 深堀純代(=星名美津紀) 東横桃子(=あの)
大将 宮永咲 天江衣(=菊池麻衣) 池田華菜(=武田玲奈) 加治木ゆみ(=岡本夏美)

のオーダーで決勝戦に挑む。

ネタバレなしの感想

麻雀のルールは複雑だ。例えば囲碁や将棋ならば、石で地を囲う、あるいは、敵将を取る、という風に一応一言できまりを説明できるが、麻雀はそれができない。

また麻雀は局が変わる度に4人の手牌(てはい)が一新されるから追いかけるのに苦労する。一方、囲碁や将棋では徐々に変化する盤面の景色を眺めていればよかった。

加えて、麻雀は囲碁や将棋とは異なり、形勢を視覚的に捉えることが難しい。

過去に「テキサスの5人の仲間」、「シンシナティ・キッド」、「マーヴェリック」といったポーカーを題材にした映画はあった。しかしそこでは人間ドラマが重視されており、ポーカーの試合はどちらかといえば補助的に使われていた。それは娯楽性を高めるための工夫だが、ポーカーのルールがわからない人に対する配慮でもあった。

一方で、本作は門外漢にとっては厳しい作品だ。あらすじで書いたような説明はわずか10数分で終わり、そのあとはひたすら咲たちの対局が続く。これは麻雀のルールを知らない観客にとっては、非常につらい構成である。

監督が試写会で言ったように「100%『咲-Saki-』ファンのために作」ること自体はもちろんよいと思う。しかし麻雀のルールがわからない人を拒絶してはいけない。そうなると映画館に足を運んだ一般客はがっかりするし、興行的にも成功できないだろう。本作の場合、原作の頭から長野県予選の終わりまでを2時間程度でまとめていたら、もう少し麻雀素人にも優しくなっていたはずだ。

百歩譲って観客全員が麻雀のルールを理解しているとしても、長野県予選だけを舞台にしたのは無理があった。結局、映画は作り物なのだから、対局の内容なんてどうにでもなってしまう。さらに主人公の咲が所属する清澄高校が全国大会に行けなくなる展開は考えにくいから、最後には清澄高校が(おそらく逆転で)長野県予選を勝ち抜くだろうということも容易に想像が付く。したがって長野県大会は出来レースであり、映画に長野県大会しか出てこないということは、映画が出来レースしか描いていないということだ。

他方で、制作者は麻雀のヴィジュアルの弱さを補うため、あの手この手で変化を付けようとした。

まず登場人物たちは容姿、言動ともに奇抜である。ただそれがあまりに極端すぎて、本作を観ていると麻雀映画なのか「ハンター×ハンター」なのかわからなくなってくる。

対局中の演出も大げさだ。牌からはしょっちゅう光や煙が出てくるし、会場に桜の花びらが舞い散ることもある。また咲たちは牌を麻雀卓の縁にこれでもかとガシガシぶつける。私はこうした描写を見て「アイアンマン」を思い出した。

これは進む方向が明らかに間違っている。娯楽作品としての不足を自覚したのなら、ドラマを充実させて挽回を図るべきだった。子供だましの演出を山盛りにしては、かえって観客の反感を買うことになる。

本作中に出てくる「エトペン」とは、「エトピリカになりたかったペンギン」という架空の絵本に登場するペンギンのことらしい。調べた限りでは、瀬川瑛子の「トドクロちゃん」との関連はないようだ。

私が観たのは5日目の午前だったが、小スクリーンに客はまばらで高齢の男性の単独来場が目立った。おそらく麻雀ファンの人が多かったと思うが、本作の出来ではがっかりしただろう。

原作はそもそも実写化に無理があり、さらに本作は取り上げる箇所を誤った。よほどの麻雀好きでなければ、本作を観ることは薦めない。

原作 小林立『咲-Saki-』  監督 小沼雄一  出演 浜辺美波、浅川梨奈、廣田あいか、古畑星夏、山田杏奈、加村真美、樋口柚子、星名美津紀、吉崎綾、武田玲奈、岡本夏美、あの、大西亜玖璃、長澤茉里奈、山地まり、永尾まりや、柴田杏花、小篠恵奈、金子理江、菊池麻衣、長谷川朝晴、玉城裕規、佐野ひなこ、夏菜、ほか

1時間49分

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