今回は「面白い(おもしろい)」の意味や語源の由来について調べていきます。
意味
見て楽しい、愉快だ。(『日本書紀(720年)』に初出)
興味をそそられる、興味深い、独特の魅力や趣がある。(『日本書紀』に初出)
こっけいである、奇妙である。(『大蔵虎明本狂言集(1642年)』に初出)(以上『日本語源大辞典』)
思うとおりで好ましい(主に打ち消しの語を伴って使われる)。(『広辞苑 第五版』)
語源
今でいう「おかしい」の意味の「面白い」は、江戸時代から広まった。
「思うとおりで好ましい」の意味の「面白い」が、「面白くない」のように主として否定の語を伴って使われて、思うとおりにいかない、望ましくない、つまらない、という意味で用いられるようになったのは明治以後のことである。
「面白い」をしゃれて「面黒い」という語もできた。意味は「面白い」に同じであり、『東海道中膝栗毛(十返舎一九、1802~14年)』にも使われている。さらに白と黒との対比で、「面黒い」は「面白くない」の意味にもなった。(以上『ことばの由来』)
面白(おもしろ)説
面白(おもしろ)が原義。目の前がぱっと明るくなる感じをいった。(『壒嚢鈔(あいのうしょう、行誉)』、『和訓栞(谷川士清)』、『本朝辞源(宇田甘冥)』、『日本語の年輪(大野晋)』)
『大言海』では『古語拾遺(斎部広成)』の「面白」という表記がこじつけだとして面白説を退ける。
面白説では「白し」を眼前が開け、明るくなる、気分が晴れる、との意味に考え、それが景物、文飾などに一般化されたとする。現在では面白説が有力。(以上『日本語源大辞典』)
『万葉集(8~9世紀)』の「たまくしげ見諸戸山(みもろとやま)を行きしかば面白くしていにしへ思ほゆ」は原義に近い用例。
中古の文学作品では、「月、面白し」(『土佐日記(935年)』)のように、自然の景物に興じる場合に使われることが多い。
転じて「節会どもの面白く趣あるを」(『源氏物語(1008年)』)のように、気持ちが開放されて楽しい、の意味になった。
「こっけいだ」の意味が加わるのは中世末から近世以降と思われる。『大蔵虎明本狂言集』に用例がある。(以上『新明解語源辞典』)
古代から一貫して「面白」と用いられるが、古代は意味は広く、近代、現代へと狭くなる。(『語源海』)
「おもしろし」は「おも(面)+しろし(白し)」。日本語の形容詞にはク活用とシク活用があり、前者は一般に状態を示し、後者は一般に情意を示す。「おもしろし」がク活用であるのは、本来「白し」を含んだ状態性形容詞だったからと説明できる。(『暮らしのことば新語源辞典』)
面著(おもしろ)説
「面白し」の「白」は当て字で、もともとは「面著し(おもしろし)」と書いた。「著し」とは、「明るくて、くっきりしている」という意味であり、「面著し」とは「目の前が明るくなるような感じ」ということ。そこから転じて古語で美しいもの、趣があるものを形容する言葉になった。(『この言葉の語源をいえますか?』)
思著(おもしるし)説
思著(おもしるし)の転。(『大言海』)
心に強く感じる意味か。(以上『日本語源大辞典』)
面知(おもしる)説
面知(おもしる)の形容詞化。面知は顔を知っているというほかに、なじみ深い、なつかしい、と言った意味がある。(『日本語源大辞典』引く所の『古代民謡の研究(折口信夫)』)
思しるお説
「おも」は「思」、「しろ」は「しるお(領外)」の意味。(『日本語源大辞典』引く所の『国語本義(高橋正澄)』)
うまし説
「おもし」は「うまし(甘美)」の意味。(『日本語源大辞典』引く所の『言元梯(大石千引)』)
まとめ
面白説は全ての辞典に紹介されていましたが、思著説、面知説、思しるお説、うまし説、について言及していたのは『日本語源大辞典』だけでした。
「おもしろし」は日本書紀の昔から「面白し」と書かれていたようです。
また『暮らしのことば新語源辞典』によるク活用とシク活用の話は、「面白」が当て字でないことの合理的な説明になっていると思われます。
このようなわけで、今回は面白説が有力ではないでしょうか。「おもしろし」の意味の変遷は興味深いです。
今回は以下の本を参考にしました。
調べた語源関連書籍 | 掲載の有無 |
日本語源大辞典(小学館) | ○ |
[増補版]日本語源広辞典(ミネルヴァ書房) | ○ |
語源海(東京書籍) | ○ |
語源大辞典(東京堂出版) | ○ |
新明解語源辞典(三省堂) | ○ |
暮らしのことば新語源辞典(講談社) | ○ |
決まり文句語源辞典(東京堂出版) | × |
日本語語源辞典 第2版(学研) | × |
語源を楽しむ(KKベストセラーズ) | ○ |
身近なことばの語源辞典(小学館) | × |
常識として知っておきたい日本語(幻冬舎) | × |
オツな日本語(日本文芸社) | × |
ことばの由来(岩波書店) | ○ |
日本語語源の楽しみ[一](グラフ社) | × |
正しいのはどっち?語源の日本語帳(永岡書店) | × |
答えられそうで答えられない語源(二見書房) | ○ |
日本語の「語源」ものしり辞典(大和出版) | × |
この日本語の語源を知っていますか?(河出書房新社) | ○ |
そうだったのか!語源の謎(河出書房新社) | ○ |
この言葉の語源を言えますか?(河出書房新社) | ○ |
猫ばばの謎(河出書房新社) | ○ |
[語源]の謎にこだわる本(雄鶏社) | × |
日本語謎解き事典〈慣用句編〉(KKベストセラーズ) | × |
語源 面白すぎる雑学知識(青春出版社) | × |
語源 面白すぎる雑学知識 Part2(青春出版社) | × |
語源 面白すぎる雑学知識 Part3(青春出版社) | × |
語源 面白すぎる雑学知識 Part4(青春出版社) | × |
知っ得 衣食住のことば語源辞典(日本漢字能力検定協会) | × |
「面白い(おもしろい)」は全ての辞書に載っており、語源も比較的わかりやすかったです。またいくつかの雑学本にも取り上げられていました。