好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~ 75点

ハニーワークス原作の「好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~」は、「ずっと前から好きでした。~告白実行委員会~」の姉妹編である。人為的な展開が多いものの、音楽を効果的に用いることで補った。ちなみに、本作を観る前に前作を予習する必要はない。

天気の良い放課後、中学1年の瀬戸口雛(=麻倉もも)は廊下の掃き掃除を済ませる。ちょうどそこへ、ゴミ箱を持った優しげな男子(=代永翼)が通りかかる。雛は、早くしないと部活に遅れてしまう、と焦り、長いほうきを手に走りだそうとした。だがそのとき、雛のほうきが男子の足をすくう。男子は転倒し、床に紙くずが散らばる。

雛は男子の前に仁王立ちして、どこを見て歩いているのか、こっちは部活に遅刻しそうなんだ、と食ってかかる。男子は苦笑いして丁寧に謝り、恐る恐る、雛のパンツが見えていることを指摘する。

それを聞いた雛は激高し、男子は立ち上がって逃げ出す。雛は廊下を走って追いかけ、その様子は雛の幼なじみ、榎本虎太朗(=花江夏樹)の目に入る。

雛は男子を壁際に追い詰めると、壁ドン状態で追求しはじめる。パンダの柄が見えた、と白状する男子に対して、雛の怒りは高まる一方だ。

そこに、虎太朗の姉で3年生の榎本夏樹(=戸松遥)が現れ、2人に声をかける。男子の名は綾瀬恋雪といい、夏樹の同級生だった。

雛は、恋雪が先輩だったことを知らなかった、と必死に謝る。そんな雛に対して、恋雪はこれまで通り礼儀正しくやわらかい口調で語りかける。雛はそんな恋雪にたちまち魅了される。

ネタバレなしの感想

本作はミュージカル風の映画で、話の内容そのものというよりは、物語と音楽との絡みを楽しむ作品だ。ただ登場人物が歌ったり踊ったりするわけではなく、本作の内容に即した歌詞の歌がところどころで流される。こうした演出によって観客はトランス状態にされ、観終わったころには不思議と楽しい気持ちになっているだろう。

本作は中学から高校までをまたぐ壮大な恋愛ものだ。雛は恋雪に思いを寄せるのだが、虎太朗は雛のことが気になっている。恋心は時間と共に薄れがちだけれど、雛と虎太朗は相手のことがいつまでも忘れられない。

本作ではとりわけ、雛の恋心が丁寧に描かれた。この映画はいかにも若者向けのようだけれど、中高年だって楽しめる。私は本作を観て、恋ってこういうものだったか、としみじみ思い出した。胸キュンである。

また本作は上映時間が約1時間と短く、話に無駄がない。始まってから終わるまであっという間だ。観客はジェットコースターに乗るような充実した時間を味わえる。

ただし、本作は相当に人工的だ。

登場人物の目の色をみんな別々に、しかもあめ玉のような色にしたのはやりすぎだった。各人の個性は必要だが、こうした描写は不自然すぎていただけない。私はかなりの違和感を感じて、しばらく話に集中できなかった。表現の幅は広い方が良いけれど、それと同時に、自然とのバランスを取る必要がある。

中学生がそろってミニスカートをはくのも奇妙だ。日本全国を探せばそんな学校もあるかもしれないが、それはおそらく珍しい。私は雛たちが最初から高校生かと思っていた。また、中学も高校も同じようにミニスカートでは、時間の経過が感じられない。もう少しメリハリをもたせた方がよかったのではないか。

高見沢アリサ(=東山奈央)の序盤の描き方はひどい。ほんの小さな子供ならあれで騙されるかもしれないが、普通の中高生は許してくれないと思う。

雛と虎太朗の中学2年,3年の描写はあまりにあっさりしていた。彼らが勉強する姿を少し見せるだけでは、せいぜい数ヶ月しか稼げない。それで2年が経ったことにしてしまっては、観客は腑に落ちないだろう。

みんなそろって桜丘高校、しかも同じ学級に集結、というのも信じがたい。話を自然に展開しようという気持ちが全く欠けている。

高校の2学期における恋雪の取り巻きも大げさだった。目的を達成するための人為性は最小限に抑えなくてはならない。この場合、新入生が2,3人入ればそれで十分ではないか。

結末は工夫されており、観客が十分に納得できるものだ。ただ最終場面の描き方には問題がある。偶然に偶然を重ねたため、話が嘘っぽくなってしまった。

ちなみに、エンドクレジッツの後に一場面あるが、これは本編の一部と言ってもいい。観客が席を立たないように、エンドクレジッツは楽しく作られている。

私が観にいったのは2日目の夜だったが、会場にいたのは私を入れて5人ほどだった。初日にあったライブ・ビューイングの反動かもしれないけれど、それにしても少なすぎる。もっと多くの人に観られてもよいと思う。

本作は少々作り物っぽいが、優れた娯楽作品である。10代の若者や若いカップルにしか観られないのはもったいない。

原作 HoneyWorks  監督 柳沢テツヤ  声 麻倉もも、花江夏樹、代永翼、細谷佳正、松岡禎丞、東山奈央、神谷浩史、戸松遥、梶裕貴、阿澄佳奈、鈴村健一、豊崎愛生、雨宮天、Gero、ほか

1時間3分

スポンサーリンク
面白い映画のレクタングル(大)
面白い映画のレクタングル(大)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
面白い映画のレクタングル(大)