イタズラなKiss THE MOVIE ハイスクール編 70点

「イタズラなKiss THE MOVIE ハイスクール編」は、いくつか大きな欠点があるものの、全体としてみればまずまずの出来だ。

朝、高校の制服を着た琴子(=美沙玲奈)は吹っ切れた表情で電車から降りてくる。ホームの先を見据え、前を歩く同期生の入江(=佐藤寛太)についてゆく。

琴子は斗南高校の3年に上がったばかりだ。2年前、入江が新入生代表としてあいさつしたのを見て以来、ずっと思いを寄せてきた。入江の知性とかっこよさが大好きだ。学年一の秀才である入江は最優秀のA組にいるが、琴子は落ちこぼれのF組で、入江と話す機会はめったにない。今までは、こっそりと教室まで見にいったり、図書館で後ろの席に座っていた。そうして入江と会えた日は、手帳にハートマークのシールを貼る。でも今日こそは、思いの丈を伝えるつもりだ。

校舎の玄関先まで来ると、琴子は入江の前に走り出て、手紙の入った封筒を差し出す。しかし入江はそれを拒否し、ティーが足りない、と言って歩き出す。琴子は入江を追いかけて再び前に出ると、今度は封筒と一緒にペットボトルのお茶を渡そうとする。入江はうんざりした様子で、頭の悪い女はきらいなんだ、と言い放ち、先へ行ってしまう。封筒の表には「Leter to 入江直樹様」と書かれており、tが一つ欠けていた。状況が飲み込めない琴子だったが、周囲の学生たちはみな笑っている。

ネタバレなしの感想

この話は「イタズラなKiss」という題名だったか。どうやら私が以前見たのは、1996年に作られたテレビドラマの再放送だったようだ。その後、韓国で「イタズラなKiss」なる作品がリメイクされるとの噂を聞いたことがあったが、同じ作品とは知らなかった。

本作は1990年から1999年まで別冊マーガレットに連載された同名の漫画が原作となっている。原作は1999年に作者の多田かおるが死亡したことにより、未完となった。またそれは日本を含めアジア各国で今までに何度もドラマ化されているとのことだから、(実は!)大変な人気作品である。

公開初日の朝にこれほどスクリーンが空いていたのはおそらくはじめてだ。平日の朝なんて誰も映画館に来ないでしょ、と思われるかもしれない。でもそれは誤解なのだ。仕事が休みの若いカップルもいるし、高齢の方たちにもハリウッドのアクション大作は人気だ。しかし今日一緒に観た観客は、10人に満たなかったのではないだろうか。

だが意外なことに、本作はおおむね優れた作品である。

その最大の要因は、主演の美沙玲奈と佐藤寛太が好演したことだ。美沙の振る舞いは漫画から飛び出してきたように極端であるが、不思議と自然で違和感がない。それは美沙がきちんと役作りをし、琴子になりきれたからだろう。佐藤はさらに素晴らしい。さほど演技の上手くない俳優陣に囲まれながら、孤軍奮闘の活躍を見せる。この2人が芳しくなかったら、本作は悲惨なことになっていた。

また、脚本も一部を除き納得がいく。

冒頭、琴子は入江に振られたが、このことは一瞬にして全校生徒に広まる。ヘッジファンドが使うアルゴリズム取引以上の速さだ。おまけに、生徒たちは誰も彼も琴子のことをあざ笑う。このあたりを観ていると嫌な予感がした。

さらにその後、琴子の家が崩壊する有名な場面が訪れる。原作では、家が欠陥住宅であったことにより震度2の地震で倒れる、という比較的現実的な設定であるが、1996年版では、家に隕石が落ちてきた、というきわめてメロドラマチックな設定だ。本作の場合そのどちらでもないのだが、一つ言えることは、1996年版に輪をかけてひどい。やはり世間の判断が正しかったのだろうか、と少し落胆した。この感情は、株で逆張り戦略が失敗したときのそれに似ている。

しかしこれ以降、本作は漫画の実写化としてはそこそこの健闘を見せる。まず、家が崩れたときのように常軌を逸した事態は二度と起こらない。だから大きく失望させられることはないだろう。一方、もう少し小規模で不可思議な出来事は多々発生する。でも漫画チックな主人公たちを見せつけられるうち、おとぎの世界に入り込んで、それらもさほど気にならなくなる。

それでも、後半F組の担任がA組の担任に詰め寄る場面では、さすがにぎこちなさを感じた。それは取って付けたようだし、学校の先生までもが壊れてはいけないだろう。また、それに続く流れもいささか人工的すぎる。これが夢で終わればよかったのだが。

すでに述べたように、本作の俳優たちの演技は必ずしも達者でない。ひどく気になったのは、琴子と入江の同級生を演じる若者たちである。彼らは一生懸命頑張るが、役と一体になりきれず、セリフと体が分離してしまっている。映画では往々にして、俳優は優秀で脚本は粗末だ。しかし本作の場合、その現象がある部分においては逆転している。もう少し肩の力を抜いてみてはどうだろうか。

本作は娯楽作品として十分な水準にある。映画館に観にいってもよいだろう。

原作 多田かおる『イタズラなKiss』  監督 溝口稔  出演 美沙玲奈、佐藤寛太、山口乃々華、大倉士門、灯敦生、石塚英彦、石田ゆかり、陣内孝則、ほか

1時間43分

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