あまり宣伝されていなかった「にがくてあまい」だが、それは予想を超える佳作である。
広告代理店に勤めるマキ（＝川口春奈）は偏食で、職場ではゼリー飲料ばかり飲んでいる。マキは上司からテレビ広告の制作責任者に初めて指名され喜ぶが、それは野菜嫌いのマキには不向きなゴーヤの広告とわかる。落胆していると、今度は同僚の女性たちに夕食に誘われるが、それはまたしてもマキが苦手な有機野菜を使ったレストランだった。そこで、今夜は近々同居する予定の彼との約束がある、と言って彼女たちの誘いを断る。その夜、マキはゲイバーでマスター（＝SU）に説教されながらも愚痴をこぼす。するとそこへスーツを着た若い美男子（＝林遣都）が窓越しに現れ、マスターに合図をする。マキは男に見惚れるが、男が店に入ってくると、その手には野菜で一杯の箱が抱えられていた。これを見たマキは一転、徐々に怒りが煮えたぎってきて、突然叫びながら立ち上がると、気を失って倒れる。翌朝、気付けばマキは自分の部屋にいて、台所では男が野菜を使った朝食を作っている。
本作は全体的に少し早足で作られており、マキと渚（＝林遣都）の関係が十分深く描けていない。彼らの同居がはじまったかと思えば、すぐに渚の同居人アラタ（＝淵上泰史）が登場して、何か落ち着かない感じがする。もう少し時間をかけて彼らのお互いに対する愛情を描いてもよかった。また後半で布団にキノコが生える場面があるのだが、それをきっかけとした展開は大げさすぎて違和感がある。もう少し自然で観客を納得させられる方法があったはずだ。
しかし、本作の発想はとても楽しく、特に導入部分は上手く工夫されている。加えて、ところどころで気の利いた冗談が見られ、それらは作品全体を明るくする。ときおり仰々しい表現があり、そのため現実性を失いかけるところもあるのだが、ぎりぎり興ざめしない程度に収まっている。本作は低予算映画と思われ、そのため例えば音楽の使用はほとんどないのだが、それでもよい作品に仕上がったのは、脚本が優れていたためだ。
本作はさらっとして楽しい映画だが、観終わった後に何も残らない作品というわけではない。きっと低予算でもよい作品が作れることに驚くだろう。
原作 小林ユミヲ『にがくてあまい』 監督 草野翔吾 出演 川口春奈、林遣都、淵上泰史、ほか
1時間36分