少年の一夜の夢を描いた「フリー フォール」は優れた見る絵本であるが、物語はあっという間に終わってしまい、若干読み応えに欠ける。
少年が開いた本を抱えてベッドで眠っている。寝返りを打つと、本はひっくり返って仰向きに開かれる。開け放たれた窓から風が吹き込み、頁がめくられる。各頁には地図が描かれており、それが少年の夢の中で現実の土地となって広がる。土地の区割りは、少年の毛布のチェック柄によく似ている。そして土地はチェス盤に滑らかにつながり、パジャマ姿の少年は、チェスの駒から姿を変えた女王や僧正らに迎えられる。
本書には文字がない。だから私たちは絵を見ながら物語を想像していくこととなり、少年の夢の中をさまよっているような感覚が味わえる。また少年の日常にある道具の数々が巧妙に姿を変えて現れ、夢と現実世界とのつながりが感じられるよう工夫されている。
本書の話は筋が通っているものの、与えられる情報は断片的で、読者には頁間(?)を埋める努力が求められる。特に竜を閉じ込めるあたりは、もう少し多くの絵を使って丁寧に描けばよかったのではないかと思う。そして、往って来い(=証券用語)といった感じで、夢はあっという間に終わってしまう。
本書を楽しむには、絵を細かく見ていく必要がある。図書館で一度借りれば十分な作品だが、ウィーズナーの絵が好きな人は楽しめるだろう。
作 デイヴィッド・ウィーズナー
32頁 文字なし
1989年コールデコット栄誉賞