足がすくむような上空からの風景が印象的な「綱渡りの男」は、9/11に着想を得て書かれたノンフィクション作品である。
ニューヨークで活躍する大道芸人の若者フィリップは、ある日、ツイン・タワーの間に綱を張りその上を歩くことを思いつく。フィリップはタワーが未完成なことに目をつけ、仲間とともに建設労働者の格好でタワーに入り込む計画を立てる。
本書は、高所での綱渡りに挑戦する若者を描いた、それだけの作品である。同じような綱渡りをするアメリカの曲芸一族や、ビルを素手でよじ上るスパイダーマンはテレビでもおなじみだし、最近では素人までもが”スカイ・ウォーク”なるものの動画をネットに投稿している。だから、本書の話は特に人を驚かすようなものではない。
では、なぜ本書は書かれたのか。作者は過去長年ニューヨークで暮らしており、作者のスタジオはツイン・タワー建設のため収用されている。また、作者はフィリップが有名になる以前からたびたびフィリップの大道芸を目にしていた。そのため、ツイン・タワーでフィリップが綱渡りをしたことは作者を大変驚かせただろう。作者は対談の中で、9/11が、ツイン・タワーのこと、ニューヨークに長年住んでいたこと、そしてフィリップのことを思い出させたと語っている。だからきっとこの絵本を通じて、自らの大切な思い出を後世に伝えたかったのではないかと思う。
参考
・PBS News Hourでの作者の対談記事→ Mordicai Gerstein
・フィリップ・プティのTED talk→ フィリップ・プティ:綱を渡る旅
本書を読むことには意義があると思うが、図書館で借りれば十分である。
作 モルディカイ・ガースティン 訳 川本三郎
40頁 文字数少ない
2004年コールデコット賞