一週間フレンズ。 30点

「一週間フレンズ。」は前半は良く出来ているものの、後半に入ると大きく崩れてしまう。

都立緑川高校の屋上にて、長谷祐樹(=山﨑賢人)は本の余白に何か描いている。一方、室内では藤宮香織(=川口春奈)がノートに文章を綴る。

高校2年生の春休み、長谷は学校の図書室で厚い本を物色している。そして『アンリ・ミショー全集Ⅰ』という本を手に取ると、勉強中の親友、桐生将吾(=松尾太陽)に声をかけて雑談を始める。そのとき、長谷は床に図書利用カードが落ちているのを見つけた。それには「藤宮香織」という名が書かれており、長谷は彼女の姿を想像しながらカードのにおいをかぐ。するとそこへ落とし主の藤宮香織(=川口春奈)がやってきて、長谷は言い訳をしながらカードを渡す。

帰り道、長谷は電車の中で椅子に座り、傍らに本を置いてうたた寝を始める。たまたまその車両には藤宮も乗り合わせていた。長谷は電車が西府中駅に着くと目を覚まし、本を置いたまま大慌てで電車から飛び出す。そのことに気付いた藤宮は、本を掴むと外にいた長谷に投げ渡す。

始業式の日、クラス発表の紙が昇降口前に張り出されている。長谷は桐生や幼なじみの山岸沙希(=高橋春織)と同じ学級になり、そこには藤宮の名前もあった。長谷は教室へ入ると藤宮に声をかけて本のお礼を言うが、藤宮の反応は素っ気ない。

放課後、長谷は昇降口先まで藤宮を追いかけ、友達になってください、と言って手を差し出す。しかしその誘いはあっさりと断られてしまう。

ネタバレなしの感想

本作は記憶が1週間しか続かない藤宮に対する長谷の恋心を描いた恋愛映画である。題材だけ見ると「50回目のファーストキス」に似ているのだが、本作は片思い感が満載の切ない作りになっている。

本作の前半は丁寧に作られた。

記憶が1週間毎にリセットされるという設定は突拍子もなく思えるが、実際に短期間しか記憶を保存できない病気があるようだし、本作中でも藤宮の症状に関しては一応それらしい説明がなされる。

また主演の川口春奈と山﨑賢人は好演した。彼らの演技によって藤宮が抱える苦しみや藤宮に寄せる長谷の思いが自然に表現されている。

さらに藤宮と長谷が心を通わせていく過程も順を追って丹念に描かれた。藤宮の病状は深刻だけれど、観客は2人が少しずつ前進しているような感覚を味わえるだろう。

だが残念なことに、本作は九条一(=上杉柊平)が登場したあたりから急に安っぽくなる。

まず、藤宮の病気の鍵を握る九条が緑川高校に転校してくる、という展開は都合が良すぎた。おまけに九条は藤宮たちと同じ学級に入ってくるのだ。制作者は冒頭から地道な努力を続けてきたのに、ここでちゃぶ台返しをやってしまった。

さらに、九条に対する女子生徒たちの反応がいかにも漫画的である。ここに至るまでの描写は割合現実的であったから、突然の変化に違和感を感じた。

九条が藤宮の病床に現れたのも不可思議だ。長谷たちと一緒に病院に来たわけではなさそうだが、どのようにして藤宮の所在を知ったのだろう。

文化祭の準備中にドミノを倒してしまった長谷は、藤宮の手を取り図書室へ逃げ込む。しかしドミノを倒された方は単に困っているのだ。ホラー映画じゃあるまいし、犯人を校舎内まで追い詰めようとはしないだろう。また藤宮を連れて図書室に駆け込む、といったあたりにも作者の都合が強くにじむ。

続く桐生や九条との絡みは手抜きにもほどがある。位置的に考えて長谷と桐生は九条の姿が見えていただろう。また長谷がすぐに引き返してくるのは不自然だし、桐生が時間差で追いかけてくるのもわざとらしい。

また藤宮が記憶に蓋をした理由は稚拙すぎる。ここまで観た観客たちは、さぞかし重大な過去が明かされるのではないかと期待していたと思う。だがそもそも、日曜の夜に寝て月曜の朝起きると1週間の間に人と接した記憶が消える、という当初の設定に無理があった。こうすると答えを示さないわけにはいかないけれど、かといって納得のいく説明をすることも難しい。藤宮の症状にもう少し柔軟性を持たせれば(例えば、突発的に記憶がなくなる、など)、のちのちの記述も楽になっただろう。

さらに後半はだらだらとした場面が続く。本作の上映時間は2時間なのだが、きっちりまとめれば1時間30分程度に短縮できたのではないか。

1週間で記憶を失う、という藤宮の性質上、本作は話の積み上げが難しい。藤宮との関わりを通じて長谷は成長したのかもしれないが、藤宮は長谷のことなど覚えていない。しかも後半に入ると交換日記までなくなってしまうのだ。これでは話が薄味になるのも当然だろう。制作者はそれを音楽でごまかそうとしたが、そうした小手先の対応で上手くいくはずもない。

結末には一定の工夫が見られるものの、その際に用いられる小道具は結局のところ交換日記の簡易版である。だからそれを藤宮に見せたところでまた同じことの繰り返しにすぎず、長谷と藤宮の関係は前進も後退もしない。このような終わり方だと、鑑賞後になんともすっきりしないものが残る。

私が観たのは11日目の午前だったが、この日はファーストデーということもあって客はそこそこ入っていた。ただ本作の出来では期待に応えられなかっただろう。

本作は後半に難があり、最後まで盛り上がりに欠ける。原作やアニメ版の支持者は別として、一般には薦められない。

原作 葉月抹茶『一週間フレンズ。』  監督 村上正典  出演 川口春奈、山﨑賢人、松尾太陽、上杉柊平、高橋春織、古畑星夏、伊藤沙莉、甲本雅裕、国生さゆり、岩瀬亮、戸次重幸、岡田圭右、ほか  声 雨宮天、山谷祥生

2時間

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