ひるなかの流星 80点

「ひるなかの流星」は脚本が秀逸で、尻上がりに調子を上げる。

夏の暑い日、田舎から出てきた与謝野すずめ(=永野芽郁)は吉祥寺の駅前で立ち往生している。スーパーのチラシの裏には地図が描かれており、すずめはそれを頼りに路地をさまよい歩く。しかし一向に目的地には辿り着かず、道行く人々もすずめの力にはなれない。

すずめは暑さにやられ、公園のベンチに腰掛けた。

実はすずめは今、伯父の熊本諭吉(=佐藤隆太)の家に向かっている。すずめの父親は工場長としてバングラデシュへ赴任することとなり、母親の聡子(=西田尚美)は心配で付いていくことにした。そうしてすずめは東京に住む諭吉の元へ半ば強制的に送り出されてしまったのだ  

すずめがぼーっとして空を眺めていると、一筋の流星が流れる。すずめは思わずベンチに立ち上がり、続く流星を待ち構える。

すずめは小学生のときにも真昼に流星を見たことがあった。それは熱を出して早退した帰り道で、とても不思議に感じられた  

そんなことを思い出しているうち、すずめは意識が遠のいてそのまま後ろ向きに転倒してしまう。

すずめが目を覚ますと傍らには見知らぬ男(=三浦翔平)がいた。さらに諭吉も近寄ってきて、すずめの意識が戻ったことを喜ぶ。男の名は獅子尾五月といい、諭吉の大学時代の後輩だった。獅子尾は公園で行き倒れになっていたすずめを見つけ、地図を頼りに諭吉の家まで送り届けてくれたらしい。すずめが自己紹介をすると、獅子尾は与謝野すずめという名をおもしろがり「ちゅんちゅん」というあだ名を付ける。

転校初日、すずめは田舎から持ってきた制服を着て学校へ向かう。ざわつく周囲を尻目に教室へ向かって歩みを進めていると、後ろから獅子尾に、ちゅんちゅん、と呼び止められる。獅子尾はこの学校の歴史教員であり、すずめが所属する学級の担任でもあった。

すずめの席は窓際の一番後ろに用意されており、隣にはヘッドホンをした馬村大輝(=白濱亜嵐)が座っていた。

ネタバレなしの感想

本作はすずめ、獅子尾、馬村の三角関係を主題とした古典的なドラマである。深夜アニメの「風夏(ふうか)」にも見られたように、三角関係は今でも主要な題材の一つだ。しかし本作は三角関係「だけ」に着目しているという点で、まさに直球勝負の作品といえる。

こうした単純な作りにすると漫画やラノベなどの連載ものでは上手くいかない。それに比べて映画は上映時間が決まっているため作りやすいが、唯一の話題が三角関係なだけに、よほど慎重に描かなければたちまち安っぽくなってしまう。

だが本作の脚本は極めて巧妙に書かれた。

序盤が優れた映画は多いけれど、大抵は先へ進むにつれてネタが涸れ、後半は苦し紛れの力業が目立ちはじめる。ただ驚くべきことに、本作はその逆であった。前半は地に足が付いておらず頼りないが、内容は時間と共に充実していく。

また本作は全編にわたって話のテンポが良い。本作は使えるネタが限られているためただでさえ中だるみしやすいはずだが、脚本家はそんなことはお構いなしにぐいぐいと観客を引っ張っていく。

本作は、恣意的な展開の少なさ、という点でも傑出している。もちろん人工的な流れは多々あるが、ほかの実写化作品に比べれば圧倒的に軽微だ。例えば、学校ですずめと馬村が抱擁しているときに同級生の猫田ゆゆか(=山本舞香)が現れたり、すずめと獅子尾が話しているときに馬村が通りかかったりする。しかしこういった場面でも、人通りの多い場所と時間帯を選んでいるためそれほど違和感はない。また最終盤ですずめが電車に乗り損なうシーンは印象的だった。こうした方が撮影しやすいし、何よりも自然なのだ。

すずめの恋心の描写も上手い。中盤までは丁寧に描き、後半は結末に備えて少しブラックボックスのようにしている。しかし終盤においてもすずめが葛藤している様子は伝わり、観客は何となくわかったような気持ちにさせられてしまう。

原作のすずめはどちらかといえば深夜アニメ「クズの本懐」の安良岡花火に似た我の強い人物だ。一方、本作のすずめは素直でどこか垢抜けない。これは永野芽郁の素が出ていると思うが、結果的には本作の成功に大きく貢献した。もしすずめが世間ずれしていたら、口達者に本心を語る姿はきっと共感を得られなかっただろう。

映画ではしばしば、魔法、タイムリープ、事故、病気、不倫、天才、幼なじみ、など何かしらの飛び道具が使われる。残念ながら本作の場合、それはロリコンのおっさんであった。しかも獅子尾は初対面のすずめを「ちゅんちゅん」と呼んではばからない、筋金入りのロリコンである。ただ獅子尾が真面目だったらよいかと言えば、それはそれで気持ち悪い。本作が使う飛び道具は多くないけれど、恋の相手が教師でなければより洗練された作品に仕上がっていただろう。

また三浦翔平の演技は起伏に乏しい。今のままではセリフを棒読みしているだけなので、もう少し心を開いて演じてみたらどうか。

そのほか、個別の場面について気になったことを上げる。

公園でのすずめの倒れ方は大袈裟すぎた。そのまま獅子尾に受け止められたとすれば人為的すぎるが、もしそうでなければ大けがになってしまう。地べたに倒れ込むくらいが適当だった。

白濱亜嵐の頬を化粧で赤くする演出は間違っている。たとえ顔が赤くならなくても、それを表情やセリフで表現するのが俳優の仕事だ。そうやって頑張っている俳優に対して化粧を施すのは失礼だし、観ている観客も腑に落ちない。

獅子尾が室内で蛍を放す場面がある。ただ蛍は捕まえるとすぐに弱り、箱を開けたからといって一斉に飛び出すとも考えにくい。獅子尾は大人だから、そういうことはわかっていると思う。

結末においてもすずめの演説が炸裂する。ただしそのときのやりとりは少々間延びした感があった。また猫田たちは登場させず、もっとシンプルに終わった方が良かっただろう。

ちなみに、恋は若い2人のものであり、好きな人と共に成長していくことこそ人生の醍醐味である。年上の男性に惹かれる気持ちはわからなくもないが、大切なことは、物事を点で見ることではなくて、未来へ投資することだ。

私が観たのは2日目の午後だったが、満杯の会場は女子中高校生が9割5分で残りはカップルといった感じだった。今までに少女漫画原作の映画は何本か観たけれど、これほど盛況かつ客層の偏った作品は初めてだ。学校が春休みに入ったことも影響しただろうか。

本作は獅子尾の扱いに難があるものの、揺れ動く恋心の描写は見事だ。どうせ女子中高生が観る映画、と敬遠せず、是非映画館で鑑賞してほしい。

原作 やまもり三香『ひるなかの流星』  監督 新城毅彦  出演 永野芽郁、三浦翔平、白濱亜嵐、山本舞香、小野寺晃良、室井響、小山莉奈、大幡しえり、西田尚美、佐藤隆太、ほか

1時間59分

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