「どうして カは みみのそばで ぶんぶんいうの?」を読むと、西アフリカの先人たちの優れた発想に驚かされる。
ある朝、イグワナが水たまりで水を飲んでいると、カがやってきて言った。イグワナ、私が昨日見たことを、話したって信じてくれないでしょうね。まあ、言ってごらん、とイグワナが答えた。あのねえ、お百姓が、あたしくらいもあるヤマイモを、掘っていたの、とカは言った。ヤマイモに比べたら、自分がどんなに小さいか、知ってるくせに!イグアナはぴしゃりと言った。そんな馬鹿話を聞くくらいなら、つんぼになった方がましってものだ。イグアナは両方の耳に木の枝で栓をして、めく、めく、めくと、行ってしまった。ニシキヘビのそばを通ったときも、イグワナは、まだぶつぶつ言っていた。大きなヘビは頭を上げて、おはよう、イグワナ、と言った。イグワナは返事をしない。ニシキヘビは独り言を言った。おや?なぜ僕に口をきかないんだろう、イグワナのやつ、きっと何か怒っているんだな、僕に悪さをしようと企んでいるのかもしれないぞ!ニシキヘビは隠れるところを探しはじめた。ウサギ穴が見つかったので、わさうす、わさうす、わさうすと、入っていった。大きなヘビが巣に入ってきたので、ウサギはびっくり。裏口から這い出して、森の空き地を、くりっく、くりっくと、跳ねていった。
本書の話は西アフリカ民話が元となっている。その子供っぽい題名からはなかなか想像できないが、これは発想に優れるのみならず、非常に上手く構成された童話である。現代の絵本作家たちがネタ切れで悩む中、一体どのようにして先人たちがこの話を思いついたのかと、不思議で仕方ない。絵本の話として、これ以上のものは容易に書けないのではないだろうか。本書は決して理屈っぽい話ではなく、逆に、本書を読み進めても、どうしてカが耳のそばでぶんぶんいうのか、なかなか先が読めない。では、本書はふざけているかというと、それも違って、ちゃんと読者が納得できる答えを用意している。一方、本書は絵も素晴らしい。鮮やかな色のグラデーションはとても美しく、登場物を立体的に見せる効果もある。中でも特にきれいなのは、宝石のような羽をしたカだ。そのほか、イグアナは何とも言えない良い表情で描かれている。それから、本書は訳もなかなかこなれており、動物たちの個性がよく伝わってくる。
「つんぼ(原文ではdeaf)」という表現は差別的とされ、現在は使われないから、その点は子供にしっかりと教える必要がある。ただし、本書において、この言葉は聴覚障害者を差別する意図で使われていない。したがって、作者、あるいは訳者によるこの言葉の選択は、本書の価値に影響を及ぼすものではないと考える。
本書は、文、絵、訳、と三拍子そろった傑作である。購入しても損のない1冊だ。
32頁 文字数普通 全文字かな
1976年コールデコット賞