「空とぶ船と世界一のばか」は「X-MEN」に似たロシアの昔話だが、話の流れはあまりに単調である。
昔、ある村に年寄りの夫婦がいて、息子が3人あった。上の2人は金を借りても騙されないくらい利口だったが、3番目は世界一ばかだと言われていた。子供よりもっと無邪気で、人に悪いことなんかしたことがなかった。父親と母親は上の2人のことはいろいろ考えてやったが、ばか息子にはめったに腹一杯食べさせてもやらなかった。さてそのころ、この国の王様は、空飛ぶ船を持ってきた者には、娘の王女と結婚させてやる、と国中に知らせていた。これで運が開けるかもしれないぞ、と利口な2人の息子は言って、その日のうちにさっそく出かけることにした。それを聞いた父親は、2人のために神様にお祈りをして、立派な新品の服を着せてやり、母親は、白パンと肉とウォッカをかごに入れて持たせてやった。その上、街道まで送っていって、姿が見えなくなるまで手を振ってやった。ばか息子は2人の兄が出かけていく様子を見て、俺も行きたい、と繰り返した。母親も終いには止めようがなくなり、ばか息子の声を聞かなくてすむなら、喜んで旅に出してやろうという気になって、黒パンと水を持たせた。そして戸口から送り出すと、息子が二足と歩かないうちに、家の中に引っ込んでしまった。
冒頭のあらすじだけを読むと本書は面白そうなのだが、残念なことに、それ以降はまともな話が出てこない。ばか息子は無邪気で優しいのが取り柄だが、目標達成のために何か努力をするわけではない。でも「神さまは、むじゃきな人間がおすき」だから、「さいごには、なにもかも、むじゃきな人間によいようにしてくださる」のだ。まず、ばか息子は空飛ぶ船を手に入れる。空飛ぶ船が出てくるのだから、それらしい説明があってもよさそうだが(魔法の国に迷い込むとか!)、本書はそんな手間はかけない。続いて、ばか息子は空飛ぶ船に乗り込み、会う人会う人を仲間に引き入れる。しかしばか息子たちはずっと船に乗ったままだから、全くといってよいほど動きがなく、ただ機械的に次々と地上の人を拾うだけになってしまう。この流れは非常に淡泊で、見ていて面白くない。そして船は人々を拾い終わると城に到着するが、ここでも大した動きがなく、彼らが順番に活躍するのを見せられるだけだ。このように仲間たちの紹介や活躍の記述が羅列的だから、本書を読んでいると、電化製品の説明書を読んでいる気分になる。彼らが超能力を持っていること自体は悪くなかったと思うが、彼らの扱いには工夫が足りなかった。そして本書の最後で起こることは、最も安易でいただけない。もしこの展開が受け入れられるなら、作家は誰も苦労しないだろう。
本書はロシアという広大な土地を舞台としながらも、至って窮屈な作品である。どうしても興味があるならば、図書館で手に取ってみればよい。
文 アーサー・ランサム 絵 ユリー・シュルヴィッツ 訳 神宮輝夫
45頁 文字数多い 全文字ふりがな付き(ただし、漢数字の中にはふりがなが付いていないものもある)
1969年コールデコット賞