なにかをやってくれるから、みんなあなたが大好き。「サムは けっして わすれません」はそんな世知辛い大人の世界を子供向けに描いた作品である。
動物園の時計が3時を知らせると、飼育係のサムは動物たちにえさをやる。忘れたことなどない。動物たちの好きなものでワゴンを一杯にして出発する。キリンには緑の葉っぱを、猿にはバナナを、アザラシには魚を、そして熊にはいちごを運んでやる。ワニにも、ダチョウにも、ライオンにも、それからシマウマにも、同じように彼らの好きなものをもっていく。こうしてワゴンはすっかり空になり、サムは行ってしまう。でも、何か忘れている気がする。そう、ゾウは何ももらっていないのだ。
動物たちの表情はとても豊かで、特に、えさをもらえないことがわかったときのゾウの顔は、本書中で一番の見所といってよい。また、動物園全体が色鮮やかで、見ていると楽しい気持ちにさせてくれる。
しかし、それにしても本書に登場する動物たちはかなり現金である。ゾウはえさがもらえないとこの世の終わりのように嘆くが、えさをもらえるとどうなるだろうか。ちなみに私の犬はえさをもらえないと大騒ぎするが、えさをやったからといって特に感謝してくれるわけでもない。でも、きっとこれが動物の潔さで、何かをやってくれたことで急に態度が好意的になるのは、むしろ人間の方だろう。人がそうなってしまうのは当然のことかもしれないが、本書の結末を見て少し複雑な思いがした。
絵に優れた本書だが、図書館で借りれば十分である。
32頁 文字数少ない 全文字かな
作 イヴ・ライス 訳 あきのしょういちろう