ディズニー・アニメの一場面のような「はなうたウサギさん」は、構成に優れており、発想が豊かで前向だ。
ウサギときたら、いつだって鼻歌交じり。そのくせウサギが何をしようと、どこへ行こうと、きまって手こずることになる 。ウサギは友達のねずみが乗ったおもちゃの飛行機を持って、見晴らしのよい原っぱに立っている。雲1つない快晴だ。ウサギが空に向かって飛行機を飛ばすと、ねずみは宙に放り出され、くるくると飛んだ飛行機は、高い木の枝に引っ掛かってしまう。悲しむねずみに対して、ねずみくん、心配することないですよ、なんのこれしきのこと、フフフンフンだい、とウサギは言ってどこかへ走ってゆく。そうしてねずみが見ていると、ウサギはすごく大きなものを遠くから引っ張ってきた。
本書はきわめて上手く構成されており、絵本のお手本のようだ。本書の話は奇想天外とまではいかないものの、なかなか機知に富んでいて面白い。その展開はアニメのように型破りだが、ウサギの決断力と実行力には舌を巻く。しかも、ウサギはとても前向きで楽観的なのだ。物事が上手くいかなかったときのウサギの姿勢には、きっと学ぶことがあるだろう。さらにその話をもり立てているのが、存在感と躍動感にあふれる動物たちの絵である。もし絵に迫力がなかったら、本書はこれほど優れた作品にはならなかった。本書の絵は版画の印刷にところどころ筆を入れて描かれており、とても色鮮やかで重厚な作りだ。空の色は美しく、風の流れや空気の振動などは版画で上手く表現されている。印象的な場面はいろいろあるけれど、ウサギがねずみを抱きかかえるところはとても愛らしく、ねずみの質感まで伝わってくるようだ。
しかし、本書には少し気になる箇所がある。ウサギが動物たちを運ぶとき、最初はとても重そうにしているのだが、途中から急に力持ちになる。ただそもそも、本書の内容が成立するには、ウサギはかなりの力持ちでなければならない。だから、少しはウサギが苦労する姿を見せたかったのかもしれないが、最初からウサギを力持ちとして描いた方が自然だった。
本書は改善点もあるけれど、全体的に見れば素晴らしい出来だ。購入しても損はない。
作 エリック・ローマン 訳 今江祥智
32頁 文字数少ない 全文字かな
2003年コールデコット賞