「まんまる おつきさまを おいかけて」は、物足りないが、上手くまとまっている。
今夜は、まんまるお月様が出ている。空を見上げて、子猫は思う。ミルクの入ったお皿があるよ、飲みたいなあ。目の前では、蛍が光って飛んでいる。そこで子猫は、目をつぶり、舌でぺろりと舐めてみた。でも、虫が飛び込んできただけ。おかしいなあ、こんなはずじゃあ、なかったのに、と子猫は思う。でも、ミルクの入ったまあるいお皿は、まだあそこにある。そこで子猫は、えいやっと、階段の上から飛び上がる。でも、あらら、すってんころりん、いたたたた。こんなはずじゃあ、なかったのに、と子猫はまた思う。
本書はとても地味な作品だ。本書に登場するのはおおよそ子猫だけであるが、子猫が繰り広げる冒険に意外性はなく、話はあっという間に終わってしまう。また、本書の絵は白黒だけれども、白と黒の対比ははっきりせず、灰色を主体にして描かれている。これによって満月の夜の光景を効果的に伝えているのだが、同時に、子猫の孤独や自然の厳しさも際立っている。もう少し話を長く読み応えのあるものにすれば、内容が充実し、そうした悲壮感を跳ね返すことが出来たと思う。
ただ、本書の絵には海外アニメーションのような独特な趣があって面白い。場面は夜だが、楕円形の花は不思議な雰囲気を醸し出し、蛍が放つ光は丸く温かい。それに、子猫の動きや表情はとても生き生きとして愛くるしい。一方、本書の結末は上手く書かれた。もし子猫が家の中に入って温かい暖炉のそばで眠りについたなら、自然における子猫の奮闘が台無しになっただろう。
本書は少し寂しい作品だが、結末は納得のいくものだ。もし興味があるならば、図書館で借りてみるとよい。
作 ケビン・ヘンクス 訳 小池昌代
32頁 文字数少ない 全文字かな
2005年コールデコット賞