「おじいさんの旅」は、ただ淡々と1人の日本人の生涯と彼の望郷の念を描いた、自伝的作品である。
戦前の日本に生まれた祖父は、広い世界を見ようと、若くして米国へ渡る決心をする。米国中を旅して雄大な自然や大都会の風景に心動かされる。新しい風景が見たくて故郷のことを思い出しもしない。しばらくして故郷の幼なじみと結婚し、カリフォルニアに住みはじめる。しかし時がたつにつれ、だんだんと故郷が恋しくなり、娘を育て上げた頃、家族と共に故郷へ戻る。
記憶とは不思議なもので、長年住んだ土地からしばらく離れると、人はそこに思いをはせるらしい。おそらく言葉や共通認識の問題もあるだろうし、もしかすると、その土地での不在が、悪い思い出を消し去ってくれるからかもしれない。もしも祖父が故郷を思うだけだったら、本書は成功しなかっただろう。カリフォルニアにいると日本の故郷が恋しく、故郷にいるとカリフォルニアが恋しい、そんな祖父の気持ちに、私たちは共感するのだ。
静かながらも深い内容を備えた本書は、買って損はないし、子供が大人になってから読み返すこともできるだろう。
作 アレン・セイ 訳 アレン・セイ、大島英美
文字数少ない
1994年コールデコット賞