今回は少し不思議な言葉、「図星」の意味や語源の由来について調べていきます。
意味
前もって設けた目標、的。核心的部分など。(『語源海』)
狙ったところ、急所。また、物事が推測していたとおりであること。『大言海』は「図にあたる星の義」とするが、意味するところは不明である。(『新明解語源辞典』)
慣用句「図星を指す」「図星を突く」とは、ぴたりと相手の急所を突く、正しく言い当てる、の意味。(『暮らしのことば新語源辞典』)
使い方、例文
「今言ったことは図星だろう」(『暮らしのことば新語源辞典』)
「星をさされてはツとせしが」(洒落本『大通秘密論(雲間夢中菴)』)という例のように、単に「星」という場合もあった。(『新明解語源辞典』)
語源
『暮らしのことば新語源辞典』は江戸時代後期に刊行された人情本『閑情末摘花(松亭金水)』より、『新明解語源辞典』は同時代の人情本『恐可志(鼻山人=東里山人)』よりそれぞれ例を引いている。
このようなことから、「図星」は少なくとも江戸時代後期には使われていたようだ。
「的の中心」説
もともとは、弓矢の的の中心の、黒く描かれた点を意味したという。そこから、狙い所、急所などといった意味で用いられるようになり、さらに転じて、思惑が的中することの意味でも用いられるようになった。(『新明解語源辞典』)
「ヅボシ 図星 的の中央の黒いところ、図星ニアタル(『和英語林集成(ジェームス・カーティス・ヘボン)』)」(『語源海』)
「図法師(ずぼし)」説
図星は当て字。「ずぼうし(図法師)」が短縮して「ずぼし」となった。図法師とは、江戸時代鍼灸用に中国で開発された銅製の人体像で、いわゆるツボを示したもの。正式には「銅人形」とよぶ。そのツボを「ずぼし(図星)」ともよんだところからと思われる。
「灸の伝真更我は生き図法師(雑俳)」(以上『語源海』)
鍼灸用語で、壺とされるところに墨で付けた点のことで、そこから急所を刺す意味が生じたともいわれる。(『身近なことばの語源辞典』)
まとめ
ほとんどの本には「的の中心」説に関する記述しかありませんでした。「図法師」説について詳しく書かれていたのは『語源海』だけです。
各辞典が挙げた例には江戸時代以前のものがありませんから、どうやら図星は江戸時代頃から使われはじめた比較的新しい言葉のようです。
「的の中心」説は説得力に欠けます。的の中心が江戸時代になって急に図星とよばれるようになった背景には、きっとそれなりの理由があるはずです。単に「星」ならまだわかりますが、「図」は一体どこから来たのでしょうか。最近では、テレビで芸能人が使った、などの理由で不思議な言葉が急速に広まったりしますが、江戸時代にそういうことはないでしょう。
「図法師」説は一応筋が通っています。銅製の人体像「図法師」は江戸時代に開発されたとのことですし、「図法師(ずぼし)」と「図星(ずぼし)」は同じ音です。こちらの意味が元となり、的の中心の黒点も図星とよばれるようになったのかもしれません。
今回は以下の本を参考にしました。
調べた語源関連書籍 | 掲載の有無 |
日本語源大辞典(小学館) | ○ |
[増補版]日本語源広辞典(ミネルヴァ書房) | ○ |
語源海(東京書籍) | ○ |
語源大辞典(東京堂出版) | ○ |
新明解語源辞典(三省堂) | ○ |
暮らしのことば新語源辞典(講談社) | ○ |
決まり文句語源辞典(東京堂出版) | ○ |
日本語語源辞典 第2版(学研) | ○ |
語源を楽しむ(KKベストセラーズ) | ○ |
身近なことばの語源辞典(小学館) | ○ |
常識として知っておきたい日本語(幻冬舎) | × |
オツな日本語(日本文芸社) | × |
ことばの由来(岩波書店) | × |
日本語語源の楽しみ[一](グラフ社) | ○ |
正しいのはどっち?語源の日本語帳(永岡書店) | × |
答えられそうで答えられない語源(二見書房) | ○ |
日本語の「語源」ものしり辞典(大和出版) | ○ |
この日本語の語源を知っていますか?(河出書房新社) | ○ |
そうだったのか!語源の謎(河出書房新社) | × |
この言葉の語源を言えますか?(河出書房新社) | × |
猫ばばの謎(河出書房新社) | × |
[語源]の謎にこだわる本(雄鶏社) | × |
日本語謎解き事典〈慣用句編〉(KKベストセラーズ) | ○ |
語源 面白すぎる雑学知識(青春出版社) | × |
語源 面白すぎる雑学知識 Part2(青春出版社) | × |
語源 面白すぎる雑学知識 Part3(青春出版社) | × |
語源 面白すぎる雑学知識 Part4(青春出版社) | × |
知っ得 衣食住のことば語源辞典(日本漢字能力検定協会) | × |
「図星」は割と基本的な言葉らしく、全ての辞書に載っていました。また雑学本での取り扱いも多かったです。