「月夜の みみずく」は題材はとても良いのだが、文章がきわめて読みにくく、話の内容が頭に入らない。
冬の夜更け、小さい女の子は父親とみみずくを探しに出かけた。風はぴたりと止んで、木はまるで大男の銅像のように静かに静かに立っていた。月の光がきらきらこぼれ、空一面にまぶしいばかり。遥か遠く背中の方で、汽車が汽笛を鳴らした。長く、低く、寂しい歌のように。それを聞いて、牧場の犬も歌い出す。あっちで吠えて、こっちで吠えて。その歌声が消えた後、あたりは静かで夢のよう。女の子は父親と2人、森へ向かって歩いた。雪はしゃりっと凍り、2人の足音もしゃりしゃりいった。灰色に小さく窪んだ足跡が、2人の後ろにてんてんてん。父親の影はほっそり長く、女の子の影はちんまりまるい。女の子が父親の後を追いかけて、ときどきちょろっと走ったら、ちんまり丸い影法師が、女の子の後ろで跳ねていた。
本書は小さな女の子が読者に語りかける形式で書かれている。文末には、「でかけたの」、「銅像みたい」、「ならしたよ」、「あるいたわ」、などの表現が見られる。しかし本書を読むと、とても小さな女の子に語りかけられているような気はしない。それは、本書のあちこちに大人の影が見え隠れしているからである。しかしもっときつい言葉で言うならば、本書には、大人が小さな女の子のふりをして書いたような、そんな気持ちの悪さがある。例えば上で紹介した範囲だけでも
「ぴたりとやんでいた」、「木はまるで 大男の銅像みたい」、「しずかにしずかに」、「きらきらこぼれて」、「空いちめんに まぶしいばかり」、「はるか とおく せなかのほうで」、「ながく ひくく さびしい歌みたい」、「耳まですっぽり」、「毛糸のぼうしを とおりぬけ」、「しんしん聞こえます」、「まきばの犬が 汽笛にあわせて うたいだす」、「しゃりっと」、「しゃりしゃりいった」、「てんてんてん」、「ちんまりまるい」、「ちょろっと」
など、おおよそ子供が書かないであろう表現が散見される。特に、擬音語や擬態語はあまりに技巧的で、語り手が大人であったとしても違和感がある。
そして本書のもう1つの致命的な欠陥は、著しい読みにくさだ。例を挙げて説明すると、本書は全般にわたって
「空にむかって くろぐろと せのびしている 松の森に ついた とうさんは はたりと たちどまる」
のように書かれている。しかし、このように空白の多用と句読点の省略が合わさると、読むときに一々つっかえてしまう。もしこの形式を採用するなら、よほど律に注意しなければならなかった。またこの文に関して言えば、「とうさん」にかかる形容詞が長すぎて、日本語としてはややぎこちない。
本書は原文に問題があろうが、訳が良ければもっと改善されていたと思う。題材が良いだけに、とても残念だ。図書館で借りて読んでみたい。
文 ジェイン・ヨーレン 絵 ジョン・ショーエンヘール 訳 工藤直子
32頁 文字数多い 全文字ふりがな付き
1988年コールデコット賞