「ハスの花の精リアン」の筋書きは昔から使い古されたものであり、そこに新鮮さはほとんどない。
昔、あるところにローおじさんという漁師がいた。ある年魚がさっぱり捕れなくなり、釣り糸を垂れているしかなかった。ある嵐の日のこと、おそろしく年をとった見知らぬ老婆がやってきて、向こう岸まで乗せて欲しい、とローに頼んだ。そこでローは快く舟を出した。向こう岸に着くと、老婆はローに感謝し、日が沈んだら湖の浅瀬に植えるように、と言って、種を手渡した。そこでローは種をひとつひとつ湖に植えていった。すると驚いたことに、たちまち芽が出て、葉が広がり、大きなハスの花が咲いた。その晩、ローが舟の上で眠っていると、えもいえぬ美しい調べが流れてきた。その音をたどって、ほのかに光るハスのつぼみの方へ歩み寄ると、やがて花が開き、中から小さな女の子が現れた。
本書の絵は、淡い水墨画に、原色に近い色を入れて描かれている。それは全体的に薄暗く、伝統的な中国画の雰囲気を漂わせる。中でも、暗闇に光るハスのつぼみの描写は見事であり、その光によって、つぼみの周りに3次元の空間が出来ているかのように錯覚させられる。ハスの花が咲き誇る日中の湖の情景も風情にあふれる。
特殊な能力を持った人(?)が普通の人間たちに追いかけ回される。本書はこういった分野に属するのだが、それは私たちにとってなじみ深い。昔話でいえば「竹取物語」、あるいは最近のハリウッド映画でいえば「LOOPER/ルーパー」や「X-MEN」などがそれに入るだろう。そんなおきまりの筋書きを用いるならば、何かしらの工夫をして読者を既視感から遠ざけなければならない。そして確かに、本書においても若干のひねりが用意されており、それによって作品に新しさが加わっている。しかしながら、そのひねりはやや弱く、またそこからの発展も限定的であっさりしている。もしその展開が満足のいくものであったなら、それに続く紋切り型の結末も好意的に受け取られただろう。しかし残念ながら、本書を読むと、「竹取物語」がいかに優れた作品であるかを再確認することとなってしまう。
子供が早い時期に中国画風の絵に触れることは貴重な体験になる。ただ、本書の話は物足りないから、1度図書館で借りれば十分だろう。
作 チェン・ジャンホン 訳 平岡敦
33頁 文字数普通 全文字ふりがな付き